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8-12「境界の感触」

 金属音が、乾いた空気に響く。


 何度目かも分からない打ち合い。


 呼吸は荒い。


 腕も、もう重い。


 それでも——


「まだいけるか?」


 フレイが軽く剣を回しながら聞く。


「……あと少し」


 クレージュは短く答える。


 汗が額を伝う。


 だが、その目はまだ死んでいない。


「いいね」


 フレイが笑う。


「その顔、嫌いじゃねえ」


 次の瞬間。


 踏み込んできた。


 速い。


 だが——


(見える)


 昨日より、はっきりと。


 “補助”が働いている。


 『軌道予測、補助開始』


 頭の奥の声。


 以前よりも、干渉が滑らかだ。


 押し付けてこない。


 “提案”に近い。


「……そこ!」


 クレージュが剣を合わせる。


 正確に。


 ぶつかる。


 弾く。


 体勢を崩さない。


「お、いいじゃねえか」


 フレイの声に、わずかな感心。


 さらに連撃。


 速度が上がる。


 普通なら追いつけない。


 だが——


 『最適回避ルート提示』


 “線”が見えるような感覚。


 身体が、自然にそこへ動く。


 ギリギリで避ける。


 カウンター。


「ッ!」


 今度は、フレイが受ける側。


「……やるな」


 口元が上がる。


「でも——」


 踏み込み。


 “もう一段階”速い。


「ここからだ!」


 瞬間、負荷が跳ね上がる。


 『警告:処理負荷増大』


(……まだいける!)


 無理やり踏み込む。


 補助に頼る割合が増える。


 判断が速くなる。


 精度が上がる。


 その代わり——


 “自分の感覚”が、少しずつ薄くなる。


「——っ!」


 反撃。


 剣が、フレイの肩をかすめる。


「当てた……!」


 初めての、有効打。


「……いい一撃だ」


 フレイが一歩引く。


 だがその目は——


 少し鋭くなっていた。


「けどな」


 構え直す。


「今の、お前じゃねえだろ」


 その一言。


 クレージュの動きが、わずかに止まる。


「……っ」


 図星。


 今のは——


 “寄りすぎた”。


 補助に。


 『効率的行動を推奨』


 内側の声。


 正しい。


 だが——


「違う」


 クレージュが低く言う。


 踏みとどまる。


「それじゃ意味ねえ」


 呼吸を整える。


 意識を引き戻す。


「俺がやる」


 宣言。


 その瞬間。


 補助が、ほんのわずかに後退する。


 『補助レベルを低減』


「……それでいい」


 フレイが頷く。


「来い」


 再びぶつかる。


 今度は——


 少し遅い。


 少し荒い。


 でも。


 “自分の剣”。


 ぶつかる音が変わる。


 重さが違う。


 踏み込み。


 読み。


 外し。


 繋ぐ。


 完璧じゃない。


 だが——


「はは……!」


 フレイが笑う。


「そっちの方が全然いい!」


 強く打ち込んでくる。


 それを受ける。


 崩れそうになる。


 それでも——


 踏ん張る。


「——ッ!」


 最後の一撃。


 真正面から。


 受け止める。


 衝撃。


 腕が震える。


 だが。


 折れない。


 止めた。


「……そこまでだな」


 フレイが剣を引く。


 静寂。


 次の瞬間。


 クレージュが膝をついた。


「はぁ……はぁ……」


 限界。


 完全に。


「やりすぎだバカ」


 フレイが苦笑する。


「……でも」


 クレージュが顔を上げる。


「感触は、掴んだ」


 その目は、確かに前を向いている。


「境界が、ある」


 呟く。


「任せるとダメになるラインと」


「使えるライン」


 フレイが続ける。


「……ああ」


 頷く。


 はっきりと。


「そこ、越えなきゃいいだけだ」


 シンプルな答え。


 だが。


 それが一番難しい。


「できんのかよ」


 フレイがニヤリとする。


「やるしかねえだろ」


 即答。


 迷いなし。


「じゃあ」


 剣を肩に担ぐ。


「明日もやるぞ」


「鬼かよ……」


「嫌ならやめろ」


「やる」


 また即答。


 フレイが笑う。


「いいね、その返事」


 朝日が、少し高くなる。


 訓練場に、光が差し込む。


 その中で。


 一つ、確かなものが残る。


 ——この力は、扱える。


 ただし。


 “使う側であり続ける限り”。

お読みいただきありがとうございます。

次回もお楽しみに。

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