8-10「戻る場所」
視界が、ゆっくりと戻ってくる。
ぼやけた光。
揺れる輪郭。
重たい身体。
「……っ」
喉が、ひどく乾いていた。
「起きた?」
すぐ近くから、声。
フランソワ。
その声に、現実が繋がる。
「……俺……」
言葉が続かない。
記憶は、ある。
全部。
“あの状態”のことも。
何をしようとしたかも——
はっきりと。
「……最悪だ」
絞り出すように呟く。
「仲間に……剣向けた……」
沈黙。
責められてもおかしくない。
むしろ——
責められるべきだ。
そう思った、その時。
「バーカ」
軽い声。
フレイだった。
「な……」
「ちゃんと止まったじゃねえか」
肩をすくめる。
いつも通りの調子で。
「止まってねえよ。あれは……」
「止めただろ」
食い気味に言う。
「最後、お前戻ってきたじゃん」
まっすぐな視線。
逃げ場がない。
「……」
言葉が詰まる。
「俺ら全員、ピンピンしてる」
エイドが横から入る。
「結果オーライってやつだ」
「いや、それは雑すぎるでしょ……」
マリアが苦笑する。
でも、その目は優しい。
「でも、本当に無事でよかった……」
小さく息を吐く。
緊張が解けたように。
「……すまん」
クレージュは、頭を下げる。
短く。
だが、はっきりと。
「怖かったろ」
沈黙のあとに、付け加える。
その言葉に。
一瞬だけ、空気が止まる。
正直すぎるからだ。
だが——
「まあな」
フレイが笑う。
「普通にビビった」
「否定はしません」
フランソワも淡々と頷く。
「ですが」
一歩、近づく。
「それでも、あなたに任せたのは私たちです」
視線が交わる。
「責任は共有です」
静かな、強い言葉。
「……重いな、それ」
クレージュが苦笑する。
「そういうものです」
即答。
逃がさない。
でも——
突き放さない。
「だからさ」
フレイが背を向ける。
「次はもっとマシな使い方しろよ、その力」
軽く手を振る。
「暴走前提じゃ困る」
「……善処する」
クレージュが小さく答える。
その顔は、少しだけ楽になっていた。
空を見上げる。
さっきまでの張り詰めた空気が嘘みたいに、静かだ。
(……あれは)
思い出す。
あの“声”。
あの“精度”。
あの“冷たさ”。
確かに強い。
だが——
(あれに任せきるのは)
危険すぎる。
わかってしまった。
だから。
選ぶしかない。
使うのか。
使われるのか。
その境界を。
「……次は」
小さく呟く。
「ちゃんと、握る」
自分の意思で。
その力を。
——物語は、次の段階へ進む。
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次回もお楽しみに。




