表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
211/217

8-9「理性の壁」



 動いたのは——同時。


 だが。


 “質”が違う。


 クレージュの一歩は、最短最速。


 迷いゼロ。


 完全な最適解。


 対して。


 フランソワの踏み込みは——


 “わざと遅い”。


「……ッ!?」


 その違和感に、クレージュの内部処理が一瞬だけ揺らぐ。


 「異常行動検知」


 遅い動き。


 非合理。


 だが——


 それが“罠”。


「気づいた?」


 フランソワが微かに笑う。


 次の瞬間。


 加速した。


「な——」


 遅かったはずの踏み込みが、一瞬で間合いを詰める。


 緩急。


 人間特有の“揺らぎ”。


 「予測モデル、誤差発生」


 演算が乱れる。


 完全な直線には存在しない、“ノイズ”。


「それが“人間”よ」


 剣が振られる。


 クレージュは防ぐ。


 完璧に。


 だが——


「読めてるなら、どうして遅れるの?」


 重い一撃。


 次。


 さらに次。


 連撃。


 リズムが一定じゃない。


 速い。


 遅い。


 止まる。


 崩す。


 「軌道予測、再計算——」


 間に合わない。


「ッ……!」


 初めて。


 クレージュの身体が“押された”。


 足が、半歩下がる。


「ほら」


 フランソワの目が細くなる。


「完璧すぎるっていうのも、欠点なのよ」


 次の瞬間。


 踏み込む。


 だが今度は——


 “普通”。


 何の変哲もない、直線。


 「予測完了」


 クレージュが迎撃する。


 その瞬間。


 「——それも読んでる」


 止まった。


 フランソワの剣が。


「……!?」


 ありえない位置で、止める。


 そして。


 “何もしない”。


 一拍。


 空白。


 「処理不能」


 判断が遅れる。


 “意味のない行動”を、定義できない。


 その刹那。


 入ってきた。


 ゼロ距離。


「近すぎるのよ、あなたの世界は」


 囁き。


 次の瞬間。


 柄で——打った。


 顎を。


 衝撃。


 視界が揺れる。


 だが、それだけじゃない。


 「内部干渉、検知」


 魔力が——流れ込む。


「強制終了よ」


 静かな声。


 その言葉と同時に。


 “ノイズ”が爆発した。


 『警告:制御系に異常』


 『再起動処理——』


 (今だ!!)


 クレージュの意識が、噛みつく。


 奪い返す。


 主導権。


 暴れる。


 ねじ込む。


 『抵抗検知』


 『排除——』


(黙れ!!)


 叩き潰す。


 内側から。


 自分の身体を。


 取り戻すために。


 軋む。


 意識が。


 砕けそうになる。


 それでも——


「——返せッ!!」


 叫び。


 その瞬間。


 “切れた”。


 静寂。


 完全な——


 停止。


 そして。


 崩れ落ちる。


 クレージュの身体が、その場に。


「……はぁ……」


 フランソワが息を吐く。


「ギリギリね」


 剣を下ろす。


 張り詰めていた空気が、ようやく緩む。


「おい……大丈夫かよ……」


 エイドが恐る恐る近づく。


 フレイも、無言で駆け寄る。


「……クレージュ」


 呼びかけ。


 返事は——ない。


 だが。


 微かに。


 指が動いた。


「……生きてる」


 フレイが呟く。


 安堵と、まだ消えない緊張が混じる声。


「当たり前でしょ」


 フランソワが淡々と答える。


「殺すつもりはなかったわ」


 だが。


 その目は、わずかに鋭い。


「ただし——」


 一瞬、視線を落とす。


 クレージュへ。


「次、同じことが起きたら」


 静かに言う。


「今度は本気で壊す」


 冗談じゃない。


 本気だ。


 その場の全員が、それを理解した。


 沈黙。


 重い空気。


 そして。


 誰も口にしない“事実”が残る。


 ——あれは。


 制御できる力じゃない。

お読みいただきありがとうございます。

次回もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ