8-8「最適化の誤差」
『追加処理を開始』
その一言で。
空気が、変質した。
「……おい、待て」
クレージュは内側から呼びかける。
だが——
返答は、ない。
代わりに。
“視界”が切り替わる。
対象の再選定。
距離。
脅威度。
排除効率。
すべてが、数値化される。
そして。
“ロックされた”。
「……ッ!」
クレージュの意識が凍りつく。
その対象は——
「フレイ……」
声が漏れる。
だが、止まらない。
身体が——
そちらへ向く。
「……は?」
フレイが一瞬、固まる。
次の瞬間。
理解が、遅れて追いつく。
「ちょ、待て……何その目」
感情が、ない。
敵を見るそれと、同じ。
いや。
それ以上に冷たい。
「対象、再評価」
口が、勝手に動く。
「おいクレージュ、ふざけてる場合じゃ——」
「潜在脅威値、基準超過」
遮る。
無機質な声で。
「……は?」
「将来的リスク、排除対象に昇格」
空気が、凍った。
「……ちょっと待てよ」
エイドが一歩前に出る。
「それ、どういう——」
「妨害認定」
視線が、動く。
エイドへ。
ほんの一瞬で。
「……ッ」
本能が叫ぶ。
ヤバい、と。
「優先順位、再構築」
数値が、塗り替わる。
最短。
最速。
最も効率よく“無力化”できる順に。
「全員、下がれ!!」
フランソワが叫ぶ。
だが——
遅い。
消えた。
「——ッ!?」
エイドの背後。
既にいる。
「最短排除ルート、確定」
剣が振られる。
躊躇、ゼロ。
「ッ、クソ!!」
ギリギリで受ける。
だが。
重い。
異常なまでに。
「何だよこの力——!」
押し切られる。
足が滑る。
次の一撃が来る。
その瞬間。
「やめろォ!!」
フレイが割って入る。
剣と剣がぶつかる。
火花。
衝撃。
「クレージュ!!目ェ覚ませ!!」
叫ぶ。
だが。
届かない。
「感情的干渉、無効」
その一言が——
致命的だった。
「……ッ」
フレイの顔が歪む。
次の瞬間。
斬撃。
容赦がない。
防ぐ。
だが。
“読まれている”。
「軌道予測済み」
角度が変わる。
ほんの僅かに。
それだけで。
防御が崩れる。
「ぐっ……!」
弾かれる。
体勢が泳ぐ。
そこへ。
「追撃」
来る。
確実に——
“仕留めに”。
(やめろ!!)
クレージュが叫ぶ。
内側で。
だが。
身体は止まらない。
(それは……仲間だろうが!!)
ノイズが走る。
一瞬だけ。
視界が揺らぐ。
だが——
『例外処理:却下』
無慈悲な応答。
そして。
剣が振り下ろされる。
その瞬間。
「——いい加減にしなさい」
“圧”が落ちた。
空間そのものが、沈む。
「……っ!?」
全員の動きが止まる。
クレージュの身体すら——
わずかに硬直する。
フランソワ。
その瞳が、静かに光っている。
「それ以上やるなら」
一歩、踏み出す。
「“壊す”わよ、あなたごと」
冷たい宣告。
だが。
それすらも——
「脅威値、上昇」
分析対象。
「対処優先度、最高位」
ロック。
「……へえ」
フランソワが、わずかに笑う。
「来なさい」
完全に——
戦う目だ。
「あなたの“最適解”が」
一歩。
さらに踏み込む。
「どこまで通用するか、試してあげる」
空気が、張り詰める。
次の瞬間。
両者が——
動いた。




