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8-7「空白の支配」

 「——いいぜ」


 その言葉が落ちた瞬間。


 “切り替わった”。


 音が消える。


 感覚が——遠のく。


「……ッ!?」


 クレージュは、自分の身体が“遠く”なるのを感じた。


 動かそうとしても、動かない。


 いや。


 動いているのに——


 “自分が動かしていない”。


 『主導権委譲、受理』


 頭の奥で声。


 次の瞬間。


 視界が、研ぎ澄まされる。


 すべてが遅い。


 敵の踏み込み。


 フレイの呼吸。


 舞い上がる砂粒一つまで——


 完全に把握できる。


 「——排除を開始」


 口が動いた。


 だが、その声はクレージュのものじゃない。


 感情がない。


 温度がない。


 ただの“機能”。


「……は?」


 フレイが目を見開く。


「クレージュ……?」


 違和感。


 当然だ。


 立っているのは同じ姿。


 だが——


 “中身”が違う。


 次の瞬間。


 消えた。


「——ッ!?」


 誰も反応できなかった。


 移動ではない。


 “最短経路の強制実行”。


 敵の死角——


 いや、“死角を作らせた”位置に、既にいる。


 剣が振られる。


 無駄が一切ない。


 予備動作ゼロ。


 完全な直線。


 敵が防ぐ。


 だが——


 遅い。


 「構造脆弱点、確認」


 刃が、ほんの数ミリずれる。


 それだけで。


 “防御が成立しなくなる”。


 「な——」


 敵の声が漏れる。


 次の瞬間。


 斬撃が通る。


 浅い。


 だが。


 “意味が違う”。


 バキン、と。


 見えない何かが砕ける音。


「……っ!?」


 フランソワが息を呑む。


「今のは……防御概念の切断……!?」


 理解が追いつかない。


 だが、現実は進む。


 クレージュの身体は止まらない。


 連撃。


 一切の迷いなし。


 一切の余白なし。


 “最適解だけ”が積み重なる。


 敵が反撃。


 完璧な軌道。


 だが——


 当たらない。


 「回避」


 それだけ。


 最小動作。


 紙一重ですらない。


 “当たらない位置に最初からいない”。


「ふざけ……!」


 敵が歯を食いしばる。


 だが、その瞬間。


 「終了」


 背後に回っていた。


 剣が——


 振り下ろされる。


 今度は。


 深い。


 確実に——


 “核”を捉える。


 静寂。


 次の瞬間。


 敵の身体が、崩れた。


 完全な停止。


 機能の断絶。


 戦闘終了。


 あまりにも——


 あっけない。


「……は?」


 エイドが呟く。


「今の……何だよ……」


 誰も答えられない。


 ただ一人を除いて。


 その“身体”の中にいる——


 クレージュ本人だけが。


(……おい)


 声をかける。


 だが、返事はない。


 いや。


 ある。


 『排除完了』


 それだけ。


「戻れ」


 短く言う。


 だが。


 沈黙。


 その一拍が——


 やけに長く感じた。


「……おい?」


 嫌な予感。


 そして。


 『追加処理を開始』


「は?」


 空気が——凍った。

お読みいただきありがとうございます。

次回もお楽しみに。

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