7-60「逆侵入」
「——掴んだ」
その一言が、引き金だった。
バラバラになりかけていた“自分”が、強引に収束する。
完全じゃない。
むしろ歪だ。
だが、それでいい。
整った構造は読まれる。
崩れた構造は——読めない。
『不明構造、再確認』
あの声が、わずかに遅れる。
初めてだ。
“処理が追いついていない”。
「ほらな……」
クレージュは、かすかに笑った。
息も絶え絶え。
意識も不安定。
それでも——
主導権が、ほんの一瞬だけこちらに傾いた。
「お前、全部分かるわけじゃねえんだな」
挑発のつもりだった。
だがそれ以上に——
これは“確認”だ。
相手の限界を測るための。
『訂正』
即座に返る。
だが——
ほんのわずか、“間”があった。
『未解析領域、存在』
その一言で、確信する。
——いける。
完全じゃない。
だが、“穴”はある。
なら——そこに、ねじ込む。
「……だったら」
意識を、さらに内側へ潜らせる。
自分の中じゃない。
“相手の流れ”へ。
さっき触れた“線”。
あれは一方通行じゃない。
繋がっている。
なら——
辿れる。
「行くぞ……!」
無理やり、踏み込む。
本来ならありえない。
触れるだけで壊れる領域。
だが今は——
“触れられている状態”だ。
だからこそ、逆に行ける。
『——侵入?』
声が、明確に揺れる。
その反応が、すべてを物語っていた。
「遅えよ」
クレージュの意識が、“線の向こう側”に滑り込む。
視界が、反転する。
今度は逆だ。
見られる側じゃない。
——見る側。
「……これが、お前の……」
広がる。
果てがない。
無数の構造。
重なり合う干渉。
流れ続ける“処理”。
それはもはや、生き物ですらない。
システム。
いや——
“世界の裏側の機構”。
「……ふざけたもん抱えてやがるな……」
思わず呟く。
こんなものが、本体。
こんなものが、“干渉してきている存在”。
普通なら、見ただけで終わる。
理解なんてできない。
だが——
今は違う。
“繋がっている”。
『侵入経路、遮断開始』
急激に、流れが変わる。
クレージュを排除する動きだ。
当然だ。
異物が入り込んでいる。
だが——
「遅いって言ってんだろ」
すでに、奥まで入り込んでいる。
浅いところじゃない。
“処理の根幹に近い場所”。
そこに——
“歪み”を叩き込む。
「これ……だろ」
さっき自分がやったこと。
流れをズラす。
干渉を狂わせる。
それを——
“内側から”やる。
『——異常拡大』
初めて、明確なエラーが走る。
流れが乱れる。
線が絡む。
処理が、詰まる。
「どうだよ」
クレージュは笑った。
もうボロボロだ。
限界はとっくに超えている。
それでも——
「やられるだけじゃねえんだよ」
その瞬間。
世界が、大きく揺れた。
外側で。
仲間たちのいる現実で。
干渉が、一瞬止まる。
——届いた。
確実に。
だが。
次の瞬間。
『危険度、再評価』
声が、変わる。
今までとは明らかに違う。
冷静さはそのままに——
“優先順位が跳ね上がった音”。
『対象:クレージュ』
『排除優先度:最上位』
ゾッとするほど、はっきりした宣告。
やりすぎた。
完全に、“敵として確定した”。
「……はは」
思わず笑いが漏れる。
最悪だ。
でも——
最高だ。
「ようやく、こっち見たな」
逃げ場はない。
引き返す保証もない。
それでも——
クレージュは、前を見る。
“本体の奥”を。
「まだ終わってねえぞ」
その言葉と同時に。
さらに深く、踏み込んだ。
お読みいただきありがとうございます。
次回もお楽しみに。




