表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
191/231

7-59「切り離された領域」

切り離された領域


 音が、ない。


 風も、気配も、仲間の声も。


 すべてが遠く、遠くへ押し流されたみたいに消えていた。


「……は……?」


 自分の声だけが、やけに鮮明に響く。


 だが、それすらもどこか“外側”に弾かれているような違和感があった。


 立っているはずなのに、足の感覚が曖昧だ。


 地面があるのかすら、分からない。


 ただ——


 “認識されている”感覚だけが、はっきりと残っていた。


 ぞくり、と背筋が震える。


 見られている。


 いや、“見られる”なんて生易しいものじゃない。


 ——測られている。


 内側まで、透過されるように。


「……お前、か」


 思わず、口に出していた。


 返事は、ない。


 だが——


 次の瞬間、世界が“書き換わった”。


 視界いっぱいに、無数の線が走る。


 交差し、分岐し、収束し、またほどけていく。


 今まで見えていた“線”とは比べものにならない。


 桁が違う。


 密度も、速度も、意味も。


 それはまるで——


 “世界そのものの設計図”だった。


「……っ、ふざけんなよ……」


 吐き捨てる。


 こんなもの、普通は見えない。


 見せられるものじゃない。


 だが、今は違う。


 “見せられている”。


 『対象:クレージュ』


 声が、直接頭に流れ込む。


 逃げ場はない。


 遮断もできない。


 完全に、ここは向こうの領域だ。


 『個体特性:異常干渉適性』


 線の一部が、こちらに向けて伸びる。


 触れてくる。


 なぞるように、ゆっくりと。


 鳥肌が立つ。


 だが——動けない。


 動かせない。


 まるで“観察用に固定された標本”みたいに。


 『干渉履歴:記録済』


 さっきの“踏み返し”の感覚が、勝手に再生される。


 自分の意思じゃない。


 勝手に引きずり出されている。


「……やめろ……」


 歯を食いしばる。


 だが、止まらない。


 『再現性:低』


 『安定性:不完全』


 『——だが、到達確認』


 その瞬間。


 線の流れが、わずかに変わった。


 こちらを“敵”としてではなく——


 “対象”として、より深く扱い始める。


 嫌な汗が流れる。


 これはまずい。


 さっきまでの“攻撃”とは違う。


 もっと根本的な何か。


 「……解析、してんのか……俺を」


 答えは、すぐに返ってきた。


 『肯定』


 短く、冷たい一言。


 その一言が、やけに重かった。


 『個体:クレージュ』


 『優先解析対象』


 『——分解、開始』


「——は?」


 次の瞬間。


 視界が、裂けた。


 自分の“輪郭”が、バラバラにほどけていく感覚。


 腕が、脚が、思考が。


 全部が“要素”に分けられていく。


「っ、ざけ……んな……!!」


 叫ぶ。


 だが声にならない。


 体が、もう“体”として成立していない。


 意識だけが、かろうじて残っている。


 ——このままじゃ、終わる。


 理解される。


 解析される。


 そして——


 “再現される”。


「……ふざけるなよ……」


 かすれた意識の中で、言葉を絞り出す。


 こんな終わり方は、認めない。


 勝手に分解されて、理解されて、終わり?


 冗談じゃない。


「……俺は……」


 何とか、思考を繋ぎ止める。


 バラけそうな“自分”を、無理やり掴む。


「——そんな単純じゃねえだろ」


 その瞬間。


 わずかに、線が“ぶれた”。


 『……誤差?』


 初めての、明確な違和の反応。


 それだけで、十分だった。


「……そうだろ」


 笑う。


 ボロボロのまま、それでも。


「全部、分かると思うなよ」


 自分でも無茶だと思う。


 でも——


 ここで抗うしかない。


 理解される前に、壊す。


 解析される前に、ズラす。


「来いよ……」


 意識を、無理やり一点に集める。


 バラバラになりかけた“自分”を、繋ぎ止める。


「どこまで見えるか——試してやる」


 その言葉と同時に。


 クレージュの“内側”から、別の流れが立ち上がった。


 今までとは違う。


 歪で、不完全で——


 だからこそ、読めない。


 『——不明構造、検出』


 線が、乱れる。


 解析が、一瞬止まる。


 その隙を——


 クレージュは、見逃さなかった。


 「——掴んだ」


 崩れかけた意識で、確かにそう呟いた。

お読みいただきありがとうございます。

次回もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ