7-58「上位干渉」
「……来るぞ」
クレージュの声は、かすれていた。
だが、その一言で全員の空気が締まる。
さっきまでとは違う。
“見える”ようになったからこそ分かる。
——今から来るものは、次元が違う。
空間の“線”が、一斉にざわめいた。
規則正しく流れていたはずのそれが、乱れ、重なり、干渉し合いながら——
ひとつの“塊”を形成していく。
「なんだよ……あれ……」
フレイが、思わず息を呑む。
それは、形ではない。
だが確かに“存在”している。
空間そのものが、意思を持ったみたいに収束していく。
『上位干渉、許可』
ぞわり、と全身の毛が逆立つ。
さっきまでの“削る攻撃”とは明らかに違う。
もっと直接的で、もっと根源的な——
“触れてはいけない領域”が、開こうとしていた。
「全員、離れろ!!」
クレージュが叫ぶ。
理由なんて説明している余裕はない。
ただ、本能が告げていた。
——これは、受けたら終わる。
瞬間。
空間が、“落ちた”。
「っ——!!」
重力じゃない。
圧力でもない。
もっと別の何か。
“存在そのもの”を押し潰すような力が、真上から叩きつけられる。
膝が、勝手に沈む。
骨が軋む。
呼吸が、一瞬で奪われる。
「ぐ……あああっ!!」
エイドが歯を食いしばる。
地面に剣を突き立て、なんとか耐えている。
マリアはリシェルを庇うように抱き込み、その場に伏せた。
フランソワが結界を張る。
だが——
ひびが入る。
「保たない……っ!」
嫌な音が響く。
目に見えないはずの壁が、確かに“割れかけている”。
そのとき。
クレージュの視界に、また“あれ”が映った。
線。
点。
流れ。
そして——
“崩壊の中心”。
「……そこか……!」
歯を食いしばる。
体が悲鳴を上げている。
さっきの代償が、確実に蓄積している。
それでも——
ここで止めなければ、全員が潰れる。
「クレージュ、やめろ!!」
フレイの声が飛ぶ。
「それ以上やったら、お前——!」
「分かってる!!」
即答だった。
分かっている。
壊れるかもしれない。
戻れなくなるかもしれない。
それでも。
「——ここで引いたら、終わりだろ」
静かに、言い切る。
視線は、ただ一点。
“崩壊の核”。
あそこに、干渉する。
ほんの一瞬でもいい。
流れを“ズラせば”、この圧は崩れる。
「……っ、行くぞ……!」
指先が、震える。
だが、その震えごと——力に変える。
線に触れる。
流れに、割り込む。
そして——
“押し返す”。
世界が、軋んだ。
『——異常』
初めて、その声に“揺らぎ”が混じった。
『上位干渉、阻害確認』
その瞬間。
圧力が、わずかに緩む。
「今だ!! 全員、抜けろ!!」
クレージュが叫ぶ。
フレイが、エイドが、マリアたちが一斉に動く。
だが——
次の瞬間。
“何か”が、クレージュを捉えた。
「……え……?」
視界が、止まる。
体が、動かない。
まるで“固定”されたみたいに。
嫌な予感が、背筋を駆け上がる。
『対象:クレージュ』
その声が、今までで一番はっきりと響いた。
『優先度、最大に変更』
空気が、凍る。
仲間たちが振り返る。
フレイの顔が、強張る。
「——クレージュ?」
その瞬間。
クレージュの周囲だけ、世界が“切り離された”。
音が消える。
色が消える。
すべてが、遠のく。
そして——
ただ一つの“意志”だけが、そこに残った。
『再解析、開始』
——完全に、捕捉された。
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