7-61「切断限界」
——現実側。
「……消えた……?」
フレイの声が、震える。
ついさっきまで、確かにそこにいた。
クレージュの気配が。
だが今は——
“空白”だけが残っていた。
「いや……違う……」
エイドが、低く呟く。
剣を握る手が、わずかに震えている。
「消えたんじゃない……」
目を細める。
何かを“感じ取ろう”とするように。
「——引きずり込まれてる」
その一言で、空気が凍った。
マリアが息を呑む。
リシェルが顔を青くする。
フランソワの結界が、微かに揺れる。
「そんなの……どうすれば……」
誰も答えられない。
分からない。
相手は、もう“攻撃してくる存在”じゃない。
——世界そのものに近い何か。
その内部に、クレージュはいる。
助けに行く?
どうやって?
触れることすらできない領域に。
「……くそ……!」
フレイが地面を殴る。
血が滲む。
それでも止めない。
「何もできねえのかよ……!」
そのとき。
——ズレた。
「……え?」
リシェルが顔を上げる。
ほんの一瞬。
空間が“歪んだ”。
さっきまでとは違う。
外からの圧じゃない。
内側から——
“押し返された”ような歪み。
「今の……」
マリアが呟く。
確信はない。
でも——
全員、同じことを思った。
——クレージュだ。
「……あいつ……まだやってる……!」
フレイの目に、光が戻る。
完全にやられたわけじゃない。
むしろ——
中で、暴れてる。
「だったら……!」
エイドが顔を上げる。
迷いが消える。
「外からでも、干渉できるはずだ」
「無茶よ!」
マリアが即座に否定する。
「相手はさっきの比じゃないのよ!? 下手に触れたら——」
「分かってる」
エイドは遮る。
静かに。
だが強く。
「それでも、やるしかない」
視線が、空間の歪みに向く。
あの一瞬のズレ。
あれは偶然じゃない。
内部と外部が、繋がった証拠だ。
「……一点でいい」
剣を構える。
呼吸を整える。
「“開いた場所”を叩く」
「合わせるのね……」
フランソワが理解する。
タイミング勝負。
内部からの干渉と、外部からの一撃。
それが重なれば——
“裂け目”ができる。
「ミスったら?」
フレイが問う。
答えは、簡単だった。
「——終わりだ」
誰も否定しない。
できるわけがない。
それでも。
「……上等だろ」
フレイが笑う。
荒く、無理やりに。
「アイツ一人に背負わせるほうが、よっぽどクソだ」
その言葉に、全員が頷いた。
決まった。
やるしかない。
その瞬間。
——再び、歪みが走る。
「来るぞ!!」
エイドが叫ぶ。
さっきより大きい。
明確な“揺れ”。
内部で、何かがぶつかっている。
「今だァ!!」
剣が振り抜かれる。
フレイが突っ込む。
フランソワの術式が重なる。
マリアが全員を繋ぐ。
力が、集中する。
そして——
空間に、“裂け目”が走った。
「——開いた!!」
その向こう。
一瞬だけ見えた。
“異常な構造の世界”。
そして、その中心で——
何かとぶつかり合っているクレージュの姿。
「クレージュ!!」
フレイが叫ぶ。
届くか分からない。
それでも。
その瞬間。
向こう側で、クレージュが——
わずかに、笑った。
次の瞬間。
『外部干渉、検出』
あの声が、響く。
冷たく、正確に。
そして——
『脅威レベル、上昇』
嫌な予感が、全員を貫く。
空間が、急速に収束する。
裂け目が、閉じようとしている。
「まずい、閉じる!!」
「まだだ!!」
フレイが手を伸ばす。
あと少し。
ほんの少しで届く距離。
だが——
距離が、遠のく。
世界ごと、引き離される。
そのとき。
向こう側から——
クレージュの声が、確かに響いた。
「——来んな!!」
全員が、固まる。
「……は……?」
理解が追いつかない。
助けに来ている。
なのに——拒絶?
だが、その目は本気だった。
焦りでも、恐怖でもない。
——覚悟の目。
「ここで繋いだら……全部巻き込まれる!!」
裂け目が、さらに縮む。
時間がない。
「だから——」
一瞬。
視線が、ぶつかる。
仲間たちと。
そして——
「——任せろ」
その言葉と同時に。
裂け目が、完全に閉じた。
静寂。
何もない空間。
ただ——
そこにあったはずの存在だけが、消えていた。
フレイの拳が、震える。
「……っ……!」
歯を食いしばる。
叫びそうになるのを、必死に押し殺す。
エイドが、静かに剣を下ろす。
マリアが目を閉じる。
フランソワが、息を吐く。
誰も、何も言わない。
だが——
全員、分かっていた。
これは。
——“託された戦い”だと。
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