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7-55「覗き返す視線」

 「——だから、なんだよ」


 クレージュの声は、静かだった。


 だが、その奥にあるものは、明確だった。


 怒りでも、恐怖でもない。


 “拒絶”だ。


 目の前に広がる、何もない空間。


 そこに確かに存在している“何か”。姿はない。形もない。


 それでも分かる。


 見られている。


 測られている。


 分類されようとしている。


 ——自分という存在そのものを。


 『対象:高密度異常反応』


 声が、落ちてくる。


 今までと同じ無機質な響き。


 だが、その中に含まれる“意味”は明らかに変わっていた。


 “群れ”としてではない。


 “個”として。


 クレージュ一人に、焦点が合っている。


 『解析、優先度上昇』


 その瞬間。


 何かが、身体の内側に触れた。


 ぞわり、と背筋が粟立つ。


 魔力じゃない。


 感覚でもない。


 もっと直接的に——“存在そのもの”に干渉されている。


「……っ、ぐ……!」


 膝が、わずかに沈む。


 重い。


 ただの圧力じゃない。


 自分という存在が、“解体されかけている”ような感覚。


 記憶。


 感情。


 経験。


 すべてがバラバラに分解され、別の何かに変換されていくような——


「……やめろよ」


 歯を食いしばる。


 意識を、繋ぎ止める。


 ここで崩れれば、終わる。


 理解している。


 これはただの攻撃じゃない。


 “理解されること”そのものが、致命的になる。


 『適合率、測定中』


 声が、さらに近づく。


 いや、違う。


 もう“距離”という概念が意味を持っていない。


 完全に、内部に入り込まれている。


 それでも——


「……ふざけんなって、言ってんだろ」


 クレージュは、顔を上げた。


 震えは、止まっていない。


 視界も歪んでいる。


 それでも、その目だけは——はっきりと前を見据えていた。


「勝手に測って、勝手に決めて……」


 一歩、踏み出す。


 本来なら、動ける状態じゃない。


 それでも、足は止まらなかった。


「——俺を、“分かった気になるな”よ」


 その瞬間。


 空間が、歪む。


 今までとは違う。


 向こう側の“干渉”じゃない。


 クレージュ自身から、何かが“押し返した”。


 『……誤差、発生』


 初めての反応。


 明確な、“想定外”。


 『再解析——』


「遅ぇよ」


 クレージュが、吐き捨てる。


 そして——


 手を、伸ばした。


 何もないはずの空間へ。


 だが、その先には確かに“何か”がある。


 触れられないはずのもの。


 届かないはずの領域。


 それでも——


 “今のクレージュには、見えている”。


「そこにいるんだろ」


 指先が、わずかに震える。


 だが、迷いはない。


「なら——」


 ぐっと、力を込める。


 掴むように。


 引きずり出すように。


「引きずり降ろしてやるよ」


 その言葉が落ちた瞬間。


 空間の奥で、何かが“揺れた”。


 確かに。


 今まで一切揺らがなかった“それ”が——


 初めて、反応した。


 物語は、完全に次の段階へと踏み込んだ。

お読みいただきありがとうございます。

次回もお楽しみに。

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