↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
184/241

7-52「干渉の隙間」

 ——見えている。


 さっきまでは、ただ“異常”だった。


 理解できない攻撃。


 認識できない現象。


 だが今は違う。


 クレージュの視界には、世界の“構造”そのものが映っていた。


 空間は面ではない。


 無数の“線”と“点”で編まれた、巨大な網だ。


 その一本一本に流れる、目に見えない“力”。


 規則。


 連なり。


 そして——歪み。


「……あそこだ」


 小さく、だが確信を持って呟く。


 視線の先。


 何もないはずの空間に、ほんのわずかな“乱れ”がある。


 糸が絡まるような、微細な誤差。


 だがそれは、確実に周囲と“違う”。


 そして——


 その瞬間。


 理解した。


 あれが、“来る場所”だ。


「次……来るぞ」


 声が、自然と低くなる。


 自分でも驚くほど冷静だった。


 恐怖はある。


 だがそれ以上に、“掴んだ”という確信があった。


「右だ——三歩先!!」


「なっ!?」


 フレイが反応するよりも早く、クレージュは叫ぶ。


 ほぼ同時に——


 “そこ”が、弾けた。


 音はない。


 前兆もない。


 ただ、空間がごっそりと削り取られる。


 だが——


「避けろ!!」


 全員が、動いた。


 迷いなく。


 クレージュの言葉を信じて。


 地面を蹴り、身体を投げ出し、ほんのわずかに位置をずらす。


 直後。


 さっきまで立っていた場所が、跡形もなく消えた。


「……っは……!」


 着地したフレイが、荒く息を吐く。


 その顔には、はっきりとした動揺と——


 興奮があった。


「おいおい……今の……見えてたのかよ……!」


「……見えてるわけじゃない」


 クレージュは、視線を逸らさずに答える。


「“流れ”が分かるだけだ」


 そう。


 見ているのは、結果じゃない。


 その“前”。


 干渉が発生する、わずかな兆候。


 世界の構造に走る、微細なズレ。


 それが——今の自分には、分かる。


 『回避行動、成立』


 頭の内側に、あの声が響く。


 だが今回は——


 ほんのわずかに、トーンが変わっていた。


 完全な無機質ではない。


 そこにあるのは、明確な“再評価”。


 『観測対象、更新』


 その言葉と同時に——


 空間の“密度”が変わる。


「……来るぞ、今度は速い」


 クレージュの額に、汗が滲む。


 一度掴んだとはいえ、余裕なんてない。


 むしろ逆だ。


 理解したからこそ分かる。


 これは——


 “追いつける相手じゃない”。


「次は……二点同時だ」


「はぁ!?」


 フレイが叫ぶ。


 だが否定する暇はない。


 視界の中で、二箇所の“歪み”が同時に生まれる。


 左右。


 間隔をずらして。


 逃げ場を塞ぐように。


 『最適化、進行』


 来る。


 確実に、“対応してきている”。


「左を捨てろ!! 右に寄れ!!」


 叫ぶ。


 判断は一瞬。


 全員が、同時に動いた。


 直後——


 左側の空間が、大きく抉れた。


 そして、遅れて右。


 だがそのわずかなズレが、命を分ける。


「ぐっ……!」


 エイドが転がりながらも、ギリギリで回避する。


 地面に手をついたまま、息を荒げる。


「……冗談じゃねぇぞ……」


 その声には、恐怖が混じっていた。


 当然だ。


 これは戦いじゃない。


 “理解される側”と“理解する側”の差が、そのまま生死になる領域。


 だが——


「……いや」


 クレージュは、小さく否定する。


 視線は、まっすぐ前へ。


 “見えない敵”の向こう側へ。


「まだだ」


 確かに、差はある。


 圧倒的に。


 だが——


 さっきまでは、何もできなかった。


 ただ削られるだけだった。


 それが今は——


 “避けられている”。


 それだけで、十分すぎる変化だ。


「俺たちは、もう“観測されるだけ”じゃない」


 静かに、言い切る。


 その瞬間。


 『……異常』


 初めて、はっきりとした“違和”が声に混じった。


 わずかに、だが確実に。


 それは——


 “想定外”という反応。


 クレージュの口元が、わずかに歪む。


「ようやくか」


 次の瞬間。


 空間が——さらに深く、軋んだ。

昨日は体調不良でお休みさせていただきました。

本日からまたよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。