7-50「ずれた視界」
『観測精度、最適化』
その宣言と同時に——
世界が、さらに一段“削ぎ落とされた”。
「っ——!!」
今度は回避が間に合わない。
リシェルの肩口が、ふっと“消えた”。
「……え……?」
遅れて、赤が噴き出す。
「リシェル!!」
マリアが叫ぶ。
だが、リシェル自身は何が起きたのか理解できていない。
痛みよりも先に——
“認識の空白”が来ていた。
「……今の、見えなかった……」
誰も、見えていない。
来る前兆も、軌道も、何も。
ただ結果だけが残る。
『非効率。回避行動、未成立』
淡々と告げられる評価。
それはもう、戦闘ですらない。
“処理”だ。
「……くそが……」
フレイが歯を食いしばる。
どうしようもない。
速さの問題じゃない。
反応の問題でもない。
——認識できない。
その時。
「……いや」
ぽつりと、クレージュが呟いた。
全員が振り向く。
クレージュは、消えた空間——さっきリシェルが斬られた“位置”を見ている。
「……見えてる」
「は?」
「ほんの一瞬だけど……“ずれる”」
そう言った瞬間。
空間が、また歪む。
来る。
今度は——分かる。
「右、三歩!!」
クレージュが叫ぶ。
反射的に全員が動く。
次の瞬間。
さっきまで彼らがいた場所が、音もなく消えた。
「……は……?」
フレイが、信じられないという顔で振り返る。
回避できた。
今のを。
“初めて”。
『……認識補正個体、存在』
声が、わずかに低くなる。
初めて。
明確に——
クレージュ“個人”を捉えた。
『当該個体、優先解析対象へ移行』
ぞくり、と背筋が冷える。
狙われる。
完全に。
「……上等だ」
それでも、クレージュは笑った。
ほんのわずかに、口元を歪めて。
「見えるなら——終わりじゃない」
空間が、再び揺れる。
だが今度は違う。
“分かる”。
ほんの刹那。
世界が“ずれる”その瞬間が。
クレージュは、一歩踏み出した。
逃げるためじゃない。
“踏み込む”ために。
「——来いよ」
その言葉は、明確な挑発だった。
神にも等しい存在へ向けた、たった一人の宣戦布告。
『……理解不能』
だが、その声はもう——
完全な余裕を、失っていた。
お読みいただきありがとうございます。
次回もお楽しみに。




