7-49「代償の座標」
空間が“削れた”。
それが、一番正しい表現だった。
折れたんじゃない。
歪んだんでもない。
そこにあったはずの“何か”が、まるごと切り取られている。
「——伏せろ!!」
クレージュの叫びと同時に、地面が消えた。
音はない。
振動もない。
ただ、“あった場所”が存在しなくなる。
「ぐっ……!」
エイドが転がるように距離を取る。
ほんの一瞬遅れていたら、足ごと持っていかれていた。
「今の……攻撃、なのかよ……」
フレイの声が、かすかに震える。
無理もない。
あれは“避ける”類のものじゃない。
認識した時には、すでに削られている。
『観測精度、上昇』
淡々とした声が、頭の内側に響く。
ぞっとするほどの事実。
今の一撃は——
“試し”ですらない。
「精度……だと……?」
マリアが歯を食いしばる。
その額には汗が滲んでいた。
彼女は理解している。
あの現象の本質を。
「……位置を特定されてる。空間ごと“指定”してるのよ」
「つまり?」
「逃げても意味ないってこと」
短い沈黙。
それが何を意味するか、全員が分かっていた。
逃げ場がない。
いや——
“逃げるという概念が通用しない”。
『高反応個体、優先観測対象へ指定』
その瞬間。
視線が集まる。
自然と。
迷いなく。
「……やっぱり俺か」
クレージュは、小さく息を吐いた。
分かっていた。
さっきの“拒絶”。
あれで完全にロックされた。
「冗談じゃねぇぞ」
フレイが一歩前に出る。
「優先とか勝手に決めんな。全員まとめて相手してやるよ」
「やめとけ」
エイドが静かに制した。
「これは“分散したら負ける類”だ。むしろ——一点に集めた方がいい」
「つまり囮かよ」
「違う」
エイドは首を振る。
その目は、真っ直ぐクレージュを見ていた。
「中心だ」
その言葉に、クレージュはわずかに笑った。
ほんの一瞬だけ。
「……上等だ」
逃げるつもりは、最初からない。
なら——
来るなら来い。
その瞬間。
空間が再び“削れた”。
今度は、一直線。
クレージュに向かって。
「——遅い」
踏み込む。
消える寸前の座標を読み取り、紙一重で外す。
だが。
「っ……!」
肩が、消えた。
正確には——
“削られた”。
血が、遅れて噴き出す。
「クレージュ!!」
マリアの叫び。
だが本人は、歯を食いしばりながら立っていた。
痛みはある。
だが、それ以上に——
理解が進んでいた。
「……なるほどな」
低く呟く。
「完全な“無差別”じゃない。ちゃんと“見てから削ってる”」
つまり。
完全無敵じゃない。
“観測”に依存している。
なら——
崩せる。
『対象、損傷確認』
わずかな間。
ほんの刹那。
その声に——
“変化”が混じった。
初めて。
ほんのわずかだが。
確実に。
そこにあった。
——“興味”。
クレージュは、口元を歪める。
「いいじゃねぇか」
血を拭いながら、前を見る。
「そっちも、ちょっとは楽しめそうだな」
その言葉に呼応するように、空間が軋む。
観測と拒絶。
削除と適応。
その境界線が、今——
ぶつかり合おうとしていた。
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次回もお楽しみに。




