↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
176/246

7-44「言葉を持つもの」

 『——観測対象、認識』


 声は、逃げ場がなかった。


 耳からじゃない。


 頭の内側に、直接“置かれる”ような感覚。


「……っ、これ……!」


 マリアが頭を押さえる。


 痛みじゃない。


 拒絶反応に近い、強い違和感。


「落ち着け。聞き流すな、逆に“聞け”」


 クレージュが短く言う。


 自分でも分かっていた。


 これは攻撃じゃない。


 “接触”だ。


 だからこそ——危険だ。


 『対象群、複数。個体差、確認』


 淡々とした声が続く。


 感情がない。


 だが、完全に無機質とも違う。


 “評価している”。


 そんなニュアンスが、はっきりと伝わってくる。


「……おい、こっち見てるぞ」


 フレイが低く言う。


 視線はないはずなのに——


 確実に“見られている”感覚がある。


 逃げ場はない。


 隠れる場所もない。


 どこにいても、同じ。


 『高反応個体、複数確認』


 その瞬間。


 空気が、わずかに変わった。


「……来る」


 クレージュの声が、さらに低くなる。


 直感だった。


 だが、確信でもある。


 次に来るのは——


 “試し”じゃない。


 『適合試験、開始』


 言葉が落ちた瞬間。


 世界が、弾けた。


 視界が白く飛ぶ。


 足場が消える。


「っ!?」


 落ちる——


 そう思った瞬間。


 身体が、止まった。


 いや、“固定された”。


 空中でも地面でもない場所。


 上下も、前後も、曖昧な空間。


「……なんだよ、ここ……」


 フレイの声が、かすかに震える。


 無理もない。


 景色が存在しない。


 ただ、白。


 広がっているのか、閉じているのかも分からない。


 距離という概念が、壊れている。


「全員、無事か!」


 エイドの声。


「……いる!」


「問題ないです!」


「視界は……共有できてる……?」


 声は届く。


 だが、姿が見えない。


 いるはずなのに、見えない。


 近くにいるのか、遠くにいるのかも分からない。


 そんな中——


 クレージュだけは、目を細めていた。


「……なるほどな」


 ぽつりと呟く。


「どうした!?」


「これ……“場所”じゃない」


「は?」


「空間じゃなくて——“認識そのもの”に干渉してる」


 その言葉に、誰もすぐには理解できなかった。


 だが——


 直後、それを証明するように。


 “声”が、また響く。


 今度は、少しだけ近くに。


 『分離完了』


 ぞわり、と背筋が粟立つ。


「……分離?」


 マリアが息を呑む。


 その意味を理解する前に——


 世界が、変わった。


 白が、崩れる。


 景色が、流れ込んでくる。


 だがそれは——


 “それぞれ違った”。


「……え?」


 リシェルが、呆然と声を漏らす。


 目の前に広がっていたのは——


 見覚えのある場所だった。


 城の中庭。


 幼い頃に過ごした、記憶の場所。


「なんで……ここ……」


 足が、震える。


 ありえない。


 今いる場所じゃない。


 なのに、空気も匂いも、全部が本物だった。


 一方で——


「……は、なんだこれ」


 フレイの前に広がっていたのは、燃え上がる街だった。


 見覚えがある。


 忘れたくても、忘れられない光景。


「やめろよ……それ、今出すなよ……」


 笑おうとして、失敗する。


 喉が、乾く。


 そして——


 クレージュの前には。


「……俺か」


 立っていた。


 “自分自身”が。


 同じ顔。


 同じ目。


 だが——どこか違う。


 感情が、ない。


 ただ、“観るためだけに存在している目”。


 『個体別適合試験、開始』


 声が、静かに告げる。


 逃げ場はない。


 これは——


 それぞれの“内側”に潜る戦い。


 そしてクレージュは、目の前の“自分”を見据えたまま、小さく息を吐いた。


「……いい趣味してるじゃねえか」


 恐怖は、ある。


 だが、それ以上に——


 燃えていた。


 ここを越えれば、届く。


 そんな確信が、あった。

お読みいただきありがとうございます。

次回もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。