7-43「本体からの干渉」
風が、止まった。
さっきまで確かに吹いていたはずのそれが、不自然なほどにぴたりと止む。
木々のざわめきも消える。
鳥の声もない。
音が——消えた。
「……なんだ?」
フレイが周囲を見回す。
誰も答えない。
いや、答えられない。
この静けさは、ただの無音じゃない。
“作られている”。
そんな感覚が、肌にまとわりつく。
「——来る」
クレージュが、低く呟いた。
次の瞬間。
視界が、揺らいだ。
ぐにゃりと、世界が歪む。
「っ!?」
リシェルが息を呑む。
足元の地面が、確かにそこにあるのに、距離感が狂う。
遠いのか近いのか、分からない。
「空間……じゃない……?」
ティロが眉をひそめる。
「違う。これは——」
クレージュの言葉が、途中で止まる。
理由は単純だった。
“声”が、聞こえたからだ。
頭の中に、直接。
『——観測対象、認識』
機械のようで、しかし完全に無機質でもない声。
感情がないわけじゃない。
ただ——こちらと同じ“尺度”ではない。
「なっ……!」
フレイが思わず後ずさる。
「今の……聞こえたか?」
「……ああ」
エイドが短く答える。
全員、同じものを聞いている。
間違いない。
幻覚じゃない。
『複数存在、確認』
『反応、適合』
『——選別を開始する』
その言葉と同時に。
空間が、裂けた。
今までの“裂け目”とは違う。
もっと滑らかで、もっと正確な——“開かれ方”。
そこから現れたのは、“それ”ではなかった。
形が、違う。
より“人”に近い。
だが、その目には——何も宿っていない。
「……増えた、のか?」
フレイの声が震える。
「いや……違う」
クレージュは、すぐに否定した。
「これは——“段階が上がってる”」
「段階……?」
「さっきのが“観測用”だとしたら、これは——」
言い切る前に。
“それ”が、動いた。
消えたわけじゃない。
ただ——距離という概念を無視したように、目の前に現れる。
「速——」
言葉が間に合わない。
クレージュは反射で魔力を展開する。
ぶつかる。
だが——
「っ!?」
今度は、弾けなかった。
受け止めたはずの衝撃が、“内部”に侵入してくる。
防御をすり抜けるような、異質な感触。
「なに……これ……!」
腕が、重い。
力が抜ける。
ただの打撃じゃない。
“干渉されている”。
『抵抗、確認』
『有意個体、優先対象に設定』
その声が、再び響く。
今度は——はっきりと、クレージュに向けられていた。
視線が合う。
空虚なはずの“目”が、確かにこちらを捉える。
「……来いよ」
クレージュが、低く言った。
怖くないわけがない。
だが、それ以上に——
ここで退けば、終わると分かっている。
「俺が相手だ」
その一歩が。
戦いじゃない、“対話”の始まりだった。
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次回もお楽しみに。




