7-42「観られているという確信」
誰も、すぐには動かなかった。
クレージュの言葉——“端末”。
それが意味するものを、それぞれが頭の中で反芻していた。
風が吹く。
木々がざわめく。
それだけのはずなのに——
どこか、不自然に感じる。
「……なあ」
フレイが、珍しく声を潜めて言う。
「それってさ……つまり、“本体”がどっかにいるってことだよな」
「そうなる」
エイドが短く答えた。
迷いはない。
だが、納得しているわけでもない。
「じゃあさ、その“本体”ってのは……俺たちのこと、見てるのか?」
その言葉が落ちた瞬間。
空気が、凍りついた。
誰もすぐには否定できなかった。
否定できる材料が、何一つない。
クレージュは、ゆっくりと視線を上げる。
空。
ただの空だ。
雲が流れているだけの、いつもと変わらない景色。
それでも——
“何かがいる”と感じてしまう。
「……見てる、と思う」
静かに、言った。
その声には、確信があった。
「少なくとも、さっきのは“観測”だった」
「観測……」
リシェルが小さく繰り返す。
その表情には、不安と——どこか納得したような色が混じっていた。
「攻撃してきたのも、“排除”じゃない。たぶん“反応を測ってた”」
「はあ!?」
フレイが思わず声を上げる。
「じゃあ何か? あれ、本気じゃなかったってのかよ」
「……本気だったかどうかは分からない」
クレージュは首を横に振る。
「でも、“目的”は違う」
間が空く。
誰も続きを急かさない。
聞きたくない。
でも、聞かなきゃいけない。
そんな空気だった。
「俺たちは——」
クレージュは、一人ひとりを見た。
仲間たちの顔。
フレイ、リシェル、エイド、フランソワ、ティロ、マリア。
ここまで一緒に来た仲間たち。
「“敵”として見られてるんじゃない」
その言葉に、誰かが息を呑む。
「“対象”として見られてる」
「対象って……何のだよ」
エイドが低く問う。
クレージュは、少しだけ言葉を選んでから——
「……選別、かな」
答えた。
沈黙。
今度の沈黙は、重かった。
理解してしまったからだ。
「……ふざけんなよ」
フレイが、ぽつりと吐き捨てる。
「勝手に見て、勝手に試して、勝手に選ぶってか?」
怒りが滲む。
当然だった。
「気に入らなければ、どうするつもりなんだろうな」
エイドの声は、冷えている。
「消す、だろうな」
フランソワが淡々と言った。
誰も否定しない。
できない。
それが一番“あり得る”答えだった。
しばらくして——
ティロが、小さく息を吐いた。
「……でもさ」
全員の視線が、彼に向く。
「見られてるって分かったってことはさ」
いつもの軽さはない。
けれど、逃げてもいない。
「逆に言えば、“見返せる”ってことじゃない?」
「……どういう意味だ」
エイドが問う。
「だってさ、観測してるってことは、“反応を気にしてる”ってことだろ?」
ティロは、少しだけ笑った。
「だったらさ、ビビって縮こまってるより——」
一歩、前に出る。
「“こっちから見せつけてやる”方がよくない?」
その言葉に——
空気が、わずかに変わった。
恐怖が消えたわけじゃない。
けれど、その中に“意思”が混じる。
クレージュは、少しだけ目を細めた。
「……いいな、それ」
静かに、頷く。
「どうせ見られてるなら——」
空を見上げる。
さっきと同じはずの空。
でも今は、違って見える。
「“観てる側が後悔するくらい”のもの、見せてやる」
宣言だった。
誰に向けたものかは、分からない。
それでも——確かに届く気がした。
風が、強く吹く。
まるで、応えるように。
その瞬間——
ほんの一瞬だけ。
空の奥で、何かが“揺れた”気がした。
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次回もお楽しみに。




