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7-39「残された意志」

 「……笑った?」


 フレイが眉をひそめる。


「いやいや、あれが? あの得体の知れないやつが?」


「……分からない」


 リシェルは小さく首を振る。


「でも……そんな気がしたの」


 曖昧な言い方だった。


 確証なんてない。


 それでも——


 その場の誰もが、軽く流せなかった。


 あの“視線”。


 あれを思い出せば、冗談では済まないと分かる。


「……一応、確認する」


 クレージュが“それ”に近づく。


 慎重に。


 魔力の流れを探りながら。


 完全に消えている。


 反応は——ない。


 だが。


「……妙だな」


「何がだ?」


 ティロが横に立つ。


「残り方が、変だ」


「残り方?」


「普通の魔物なら、もっとこう……雑に消える」


 言葉を探すように続ける。


「でもこれは、“整理されてる”感じがする」


「……は?」


 フレイが理解できない顔をする。


 無理もない。


 だが、エイドが小さく頷いた。


「……分かる。無駄がない」


「だろ?」


「必要なものだけ残して、他は削ぎ落とされたような……そんな印象だ」


 その表現に、空気がわずかに張り詰める。


「……まるで」


 マリアが、恐る恐る口を開く。


「誰かが、意図して“作った”みたいな……」


 沈黙。


 誰も否定できなかった。


 むしろ——


 それが一番、しっくりきてしまう。


「……やめろよ、そういうの」


 フレイが苦笑いする。


 だが、その声は少し硬い。


「つまり何だ? あれ、誰かの作品ってことか?」


「可能性の話だ」


 エイドが淡々と返す。


「断定はできない。ただ——自然発生ではない気がする」


「……気がする、で済ませていい話じゃないだろ、それ」


 フレイの言葉に、誰も返せなかった。


 そのとき——


「……あの」


 リシェルが、再び口を開く。


 全員の視線が向く。


「もう一つ……あるの」


「まだあるのかよ……」


 フレイが思わず漏らす。


 だがリシェルは、真剣なまま続けた。


「戦ってる最中……ずっと感じてたの」


「何を?」


 クレージュが聞く。


 リシェルは、一瞬だけ迷ってから——言った。


「……“選ばれてる”みたいな感覚」


「……は?」


「見られてるだけじゃない」


 ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「試されてる、でもなくて……もっとこう……」


 うまく言葉にならない。


 それでも、絞り出す。


「……“探されてる”感じ」


 その言葉に——


 クレージュの中で、何かが引っかかった。


(……探す?)


 何を?


 誰を?


 なぜ——リシェルを?


「……なあ、リシェル」


「……なに?」


「その感覚、最初からあったか?」


 少し考えて——


「……ううん」


 首を振る。


「途中から。目が合ってから、急に……」


「……やっぱりか」


 小さく呟く。


 視線。


 あの瞬間。


 明らかに“何か”が変わった。


「クレージュ、何か分かったのか?」


 ティロが問う。


 だが——


「……いや、まだ仮説だ」


 そう言いながらも、視線はリシェルに向いたまま。


「でも……もし当たってるなら」


 そこで、一度言葉を切る。


 嫌な予感が、形になりかけている。


「——あれ、一体じゃ終わらない」


「……は?」


 空気が、凍る。


「同じようなやつが、また来るってことか?」


 フレイの声が低くなる。


「たぶんな」


 クレージュは頷く。


「しかも次は——もっと明確に、“目的”を持ってくる」


 静寂が落ちる。


 戦いは終わったはずなのに。


 むしろ——


 ここからが始まりだと、誰もが理解してしまった。


 そのとき——


 ふわり、と。


 風が吹いた。


 さっきまでとは違う、冷たい風。


「……っ?」


 マリアが顔を上げる。


「今の……」


「……魔力だな」


 エイドが即座に答える。


 全員が、同時に一方向を向いた。


 森の奥。


 闇の中。


 そこに——


 “気配”がある。


 しかも一つじゃない。


「……おいおい」


 フレイが、乾いた笑いを漏らす。


「冗談だろ?」


 誰も、否定しなかった。


 クレージュはゆっくりと剣を構える。


 息を整える暇もない。


 それでも——


「……来るぞ」


 静かに言った。


 その声は、不思議と落ち着いていた。


 覚悟は、もう決まっている。


 ——終わらない。


 この戦いは、まだ。

お読みいただきありがとうございます。

次回もお楽しみに。

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