7-38「交差する意志」
“それ”が、再び消えた。
いや、違う。
速すぎて——見えないだけだ。
「右——いや、上か!?」
フレイが叫ぶ。
だが、その声よりも早く——
空間が歪む。
「来る!」
クレージュは、今度は“待たなかった”。
迎え撃つ。
踏み込む。
自分から。
ぶつかる瞬間——
魔力を、爆発させた。
ただの防御じゃない。
流し、逸らし、叩き返すための制御。
「——っ!!」
衝撃が火花のように弾ける。
腕が痺れる。
だが——今度は、砕けない。
止めた。
ほんの一瞬だが、“それ”の動きが止まる。
「——今だ!!」
叫びは、全員への合図。
次の瞬間——
世界が、連動した。
「はああああっ!!」
フレイが突っ込む。
力任せじゃない。
“置く”ような一撃。
逃げ道を潰す。
「そこだ」
ティロの剣が滑り込む。
正確無比。
ほんの数センチのズレも許さない軌道。
「拘束、入ります!」
マリアの魔法が展開。
空間そのものが、重く沈む。
足場を奪う。
「固定完了」
エイドが重ねる。
逃げ場を——消す。
そして——
「——今です、アルジェリア」
フランソワの声。
その一言で、空気が変わる。
静寂。
ほんの一瞬。
すべてが止まったような感覚。
その中心で——
アルジェリアが、一歩踏み出した。
「……終わりにしましょう」
低く、澄んだ声。
剣が、振り上げられる。
派手さはない。
だが——
圧が違う。
空間が、裂けるような感覚。
「——斬ります」
振り下ろされた。
音が、消える。
次の瞬間——
“それ”の体が、静かにずれた。
断たれた。
遅れて、衝撃が走る。
地面が抉れる。
空気が爆ぜる。
そして——
“それ”は、動かなくなった。
沈黙。
誰も、すぐには動かなかった。
終わったのか。
本当に?
その確認に、数秒かかる。
「……やった、のか?」
フレイが、ぽつりと呟く。
誰も答えない。
代わりに——
クレージュが、一歩近づいた。
警戒は解かない。
呼吸も整えないまま。
ゆっくりと、“それ”を見下ろす。
動かない。
気配も——
……ない。
「……終わり、だ」
その一言で、ようやく全員の力が抜けた。
「っはぁぁ……!」
フレイがその場に座り込む。
「マジで死ぬかと思った……!」
「同感だ」
エイドも珍しく肩を落とす。
マリアはその場にへたり込み、額の汗を拭った。
「……でも」
ティロが、静かに言う。
視線は、“それ”の残骸へ。
「ただの魔物じゃないな、あれは」
「ああ」
クレージュも頷く。
あの視線。
あの“測る”感覚。
明らかに異質だった。
「……リシェル」
振り返る。
彼女は、少し離れた場所に立っていた。
戦闘中、一歩も動かなかった。
いや——
動けなかったのかもしれない。
「大丈夫か?」
声をかける。
少しの沈黙の後——
「……ええ」
小さく、答える。
だが、その表情は——
どこか、強張っていた。
「どうした?」
「……あれ」
彼女の視線が、“それ”へ向く。
「……最後、少しだけ……笑った気がするの」
「……は?」
フレイが間の抜けた声を出す。
「いやいや、そんなわけ——」
言いかけて、止まる。
誰も、即座に否定できなかった。
あの存在なら——
あり得ると、思ってしまったからだ。
「……気のせいじゃないか?」
エイドが言う。
だが、その声には確信がない。
「……だといいけど」
リシェルは、そう言って——
目を伏せた。
その時だった。
——ピシッ
小さな音。
誰かが、顔を上げる。
「……今の、何だ?」
次の瞬間——
“それ”の残骸に、亀裂が走った。
光が、漏れる。
「……おい、待て」
クレージュの声。
遅い。
光が、一気に膨れ上がる。
「全員、離れろ!!」
叫び。
反射で動く。
だが——
光は、もう広がっていた。
飲み込むように。
優しく——
そして、逃げ場なく。
視界が、白に染まる。
音が、消える。
感覚が——遠のく。
最後に、クレージュが見たのは——
リシェルの、こちらを見る瞳だった。
何かを、伝えようとしているような。
——その意味を理解する前に。
意識は、途切れた。
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次回もお楽しみに。




