↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
170/251

7-38「交差する意志」

 “それ”が、再び消えた。


 いや、違う。


 速すぎて——見えないだけだ。


「右——いや、上か!?」


 フレイが叫ぶ。


 だが、その声よりも早く——


 空間が歪む。


「来る!」


 クレージュは、今度は“待たなかった”。


 迎え撃つ。


 踏み込む。


 自分から。


 ぶつかる瞬間——


 魔力を、爆発させた。


 ただの防御じゃない。


 流し、逸らし、叩き返すための制御。


「——っ!!」


 衝撃が火花のように弾ける。


 腕が痺れる。


 だが——今度は、砕けない。


 止めた。


 ほんの一瞬だが、“それ”の動きが止まる。


「——今だ!!」


 叫びは、全員への合図。


 次の瞬間——


 世界が、連動した。


「はああああっ!!」


 フレイが突っ込む。


 力任せじゃない。


 “置く”ような一撃。


 逃げ道を潰す。


「そこだ」


 ティロの剣が滑り込む。


 正確無比。


 ほんの数センチのズレも許さない軌道。


「拘束、入ります!」


 マリアの魔法が展開。


 空間そのものが、重く沈む。


 足場を奪う。


「固定完了」


 エイドが重ねる。


 逃げ場を——消す。


 そして——


「——今です、アルジェリア」


 フランソワの声。


 その一言で、空気が変わる。


 静寂。


 ほんの一瞬。


 すべてが止まったような感覚。


 その中心で——


 アルジェリアが、一歩踏み出した。


「……終わりにしましょう」


 低く、澄んだ声。


 剣が、振り上げられる。


 派手さはない。


 だが——


 圧が違う。


 空間が、裂けるような感覚。


「——斬ります」


 振り下ろされた。


 音が、消える。


 次の瞬間——


 “それ”の体が、静かにずれた。


 断たれた。


 遅れて、衝撃が走る。


 地面が抉れる。


 空気が爆ぜる。


 そして——


 “それ”は、動かなくなった。


 沈黙。


 誰も、すぐには動かなかった。


 終わったのか。


 本当に?


 その確認に、数秒かかる。


「……やった、のか?」


 フレイが、ぽつりと呟く。


 誰も答えない。


 代わりに——


 クレージュが、一歩近づいた。


 警戒は解かない。


 呼吸も整えないまま。


 ゆっくりと、“それ”を見下ろす。


 動かない。


 気配も——


 ……ない。


「……終わり、だ」


 その一言で、ようやく全員の力が抜けた。


「っはぁぁ……!」


 フレイがその場に座り込む。


「マジで死ぬかと思った……!」


「同感だ」


 エイドも珍しく肩を落とす。


 マリアはその場にへたり込み、額の汗を拭った。


「……でも」


 ティロが、静かに言う。


 視線は、“それ”の残骸へ。


「ただの魔物じゃないな、あれは」


「ああ」


 クレージュも頷く。


 あの視線。


 あの“測る”感覚。


 明らかに異質だった。


「……リシェル」


 振り返る。


 彼女は、少し離れた場所に立っていた。


 戦闘中、一歩も動かなかった。


 いや——


 動けなかったのかもしれない。


「大丈夫か?」


 声をかける。


 少しの沈黙の後——


「……ええ」


 小さく、答える。


 だが、その表情は——


 どこか、強張っていた。


「どうした?」


「……あれ」


 彼女の視線が、“それ”へ向く。


「……最後、少しだけ……笑った気がするの」


「……は?」


 フレイが間の抜けた声を出す。


「いやいや、そんなわけ——」


 言いかけて、止まる。


 誰も、即座に否定できなかった。


 あの存在なら——


 あり得ると、思ってしまったからだ。


「……気のせいじゃないか?」


 エイドが言う。


 だが、その声には確信がない。


「……だといいけど」


 リシェルは、そう言って——


 目を伏せた。


 その時だった。


 ——ピシッ


 小さな音。


 誰かが、顔を上げる。


「……今の、何だ?」


 次の瞬間——


 “それ”の残骸に、亀裂が走った。


 光が、漏れる。


「……おい、待て」


 クレージュの声。


 遅い。


 光が、一気に膨れ上がる。


「全員、離れろ!!」


 叫び。


 反射で動く。


 だが——


 光は、もう広がっていた。


 飲み込むように。


 優しく——


 そして、逃げ場なく。


 視界が、白に染まる。


 音が、消える。


 感覚が——遠のく。


 最後に、クレージュが見たのは——


 リシェルの、こちらを見る瞳だった。


 何かを、伝えようとしているような。


 ——その意味を理解する前に。


 意識は、途切れた。

お読みいただきありがとうございます。

次回もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。