表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
145/147

7-15「息を潜めるもの」

男の指が指した先。


広場の奥、崩れた建物の影。


そこだけ、妙に暗かった。


昼間のはずなのに、光が届いていないみたいに。


「……いるな」


フレイが低く言う。


剣に手をかけたまま、一歩前に出る。


クレージュは男の肩に手を置いた。


体温が低い。冷えきっている。


「リシェル、頼む」


「はい」


すぐにしゃがみ込む。


手をかざすと、淡い光が広がった。


その光に触れた瞬間、男の呼吸がわずかに整う。


完全じゃない。


だが、今はそれでいい。


「命は繋げます。でも……」


リシェルが言葉を濁す。


「分かってる」


クレージュは短く返す。


今は治療よりも、これ以上被害を増やさないこと。


それが先だ。


アルシェリアが一歩、前に出た。


視線はずっと奥に向いたまま。


「動いてる」


その一言で、背筋が冷える。


音はしない。


気配も、ほとんどない。


それでも“いる”。


確信だけがある。


クレージュはゆっくり立ち上がった。


足に力を入れる。


鈍い痛みが、遅れて返ってくる。


(……まだ使える)


自分に言い聞かせるように、軽く足を踏み直す。


砂が靴の下で鳴る。


やけに大きく響いた気がした。


「静かに行くぞ」


声を落とす。


全員が頷く。


呼吸すら、少しだけ抑える。


一歩。


また一歩。


瓦礫を避けながら進む。


割れたガラスが靴の下で鳴りそうになるたび、体が強張る。


風は止まっていた。


音がない。


自分たちの気配だけが浮いている。


その時。


カラン、と小さな音。


どこかで石が転がった。


全員の動きが止まる。


クレージュは反射的に視線を向けた。


何もいない。


ただの瓦礫。


だが――


「……違う」


喉の奥で呟く。


遅れて気づく。


気配が、消えた。


さっきまで確かにあった“何か”が、すっと引いた。


「隠れたか」


フレイが歯を鳴らす。


アルシェリアが首を振る。


「違う」


一瞬の間。


「回り込んでる」


その言葉と同時だった。


背後。


風が動いた。


ヒュッ、と空気を裂く音。


「――来る!」


クレージュが振り返る。


反応が、わずかに遅れる。


灰色の影が、すぐ目の前まで迫っていた。


人の形に近い。


だが腕が長すぎる。


関節の位置もおかしい。


地面を蹴った跡が、石を抉っている。


速い。


見えてからじゃ間に合わない。


クレージュは無理やり身体をひねった。


ギィン!!


爪のような一撃を、剣で受ける。


衝撃が腕を突き抜ける。


「っ……!」


歯が鳴る。


押し込まれる。


足が滑る。


石畳に靴底が引っかかり、バランスが崩れかける。


その横から、フレイが踏み込んだ。


「どけ!」


剣が横薙ぎに走る。


ズガッ!!


灰色の影が弾き飛ばされる。


地面を削りながら、数メートル転がった。


だが、止まらない。


四肢を歪に動かしながら、すぐに起き上がる。


「……気持ち悪ぃな」


フレイが吐き捨てる。


息は乱れていないが、目が鋭くなる。


クレージュは腕を軽く振った。


痺れが残っている。


感覚が少し鈍い。


(まともに受けるとまずいな……)


アルシェリアが短く言う。


「一体じゃない」


その瞬間。


左右の影が、同時に揺れた。


瓦礫の影。


崩れた壁の裏。


じわり、と灰色が滲み出る。


一つ、二つ、三つ。


気づけば、囲まれている。


「……増えるなよ」


クレージュが苦く笑う。


喉が乾く。


だが、もう引けない。


リシェルが後ろで小さく息を吸う。


「クレージュ」


「分かってる」


短く返す。


剣を握り直す。


指先に、わずかに力が戻る。


ドクン。


胸の奥が鳴る。


さっきより、近い。


はっきりと。


「こいつらじゃないな」


クレージュが低く言う。


「本体がいる」


フレイが口角を上げる。


「なら、ぶっ潰すだけだ」


その言葉に、少しだけ気が楽になる。


クレージュは息を吐いた。


白くはならない。


ただ、熱だけが残る。


「……行くぞ」


次の瞬間。


灰色の影たちが、一斉に動いた。

お読みいただきありがとうございます。

次回もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ