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7-14「静寂の奥」

街の中に入って、しばらく歩いた。


それだけで分かる。


これは“静か”じゃない。


“止まっている”。


足音がやけに大きく響く。


踏むたびに、砕けた石やガラスが鳴る。

それが、周囲の建物に反射して返ってくる。


誰もいないはずなのに、見られているような感覚。


クレージュは無意識に肩の力を抜いた。


力みすぎると、逆に反応が遅れる。


呼吸を整える。


浅く、速くなりがちな息を、少しだけ意識して落とす。


それでも胸の奥は落ち着かない。


ドクン。


まただ。


「……まだ鳴ってるな」


小さく呟く。


アルシェリアが横目で見る。


「共鳴、続いてる」


「やっぱりか」


つまり、原因はまだ近くにある。


終わっていない。


フレイが前を歩きながら、足で転がっていた瓦礫を蹴る。


乾いた音が転がる。


「嫌な感じだな」


「同感」


クレージュも短く返す。


その時。


風が抜けた。


ヒュウ、と細い音。


その風に混じって――


「……聞こえましたか」


リシェルが立ち止まる。


クレージュも足を止める。


耳を澄ます。


最初は分からない。


だが、もう一度。


かすかに。


「……助け……」


消えそうな声。


方向は、右奥。


崩れた建物の向こう。


「生存者だ」


クレージュはすぐに動いた。


足に痛みが走る。


だが止まらない。


瓦礫を乗り越え、崩れた壁の隙間を抜ける。


視界が一気に開けた。


小さな広場のような場所。


その端で、男が倒れていた。


服は破れ、血で固まっている。

呼吸が浅い。


「おい、大丈夫か」


クレージュが駆け寄る。


男の目がわずかに動く。


焦点が合っていない。


「まだ……来る……」


かすれた声。


その言葉に、空気が変わる。


フレイがすぐに振り向く。


「どこからだ」


男は震える指で、奥を指した。


広場のさらに奥。


崩れた噴水の向こう。


その瞬間。


ドクンッ


胸の奥が、強く鳴る。


今までとは違う。


はっきりとした“方向”を持った鼓動。


クレージュの視線が自然とそちらに引かれる。


空気が、重くなる。


「……いるな」


低く言う。


アルシェリアが頷く。


「強い反応。二つ」


リシェルが男の側にしゃがみ込む。


「ここは任せてください」


「頼む」


短く言って、クレージュは立ち上がる。


足の痛みが、さっきよりはっきりしている。


でも、それ以上に。


胸の奥の鼓動が強い。


ドクン。


ドクン。


呼ばれているみたいに。


フレイが剣を軽く振る。


「行くぞ」


「ああ」


クレージュは一歩踏み出す。


瓦礫の向こう。


崩れた噴水。


その先。


視界の奥に、影が揺れた。


人の形。


だが、人じゃない。


次の瞬間、空気が裂ける音がした。


来る。


そう思った時には、もう遅い。


クレージュは反射で身体をひねる。


横を、何かが通り抜けた。


風圧で頬が切れる。


遅れて、背後の壁が砕けた。


ドンッという重い音。


「……速いな」


息を吐く。


痛みも、疲労も、その一瞬で引いていく。


代わりに、感覚が研ぎ澄まされる。


視界の中心に、敵だけが残る。


「来いよ」


小さく呟く。


その声に応えるように、影が動いた。

お読みいただきありがとうございます。

次回もお楽しみに。

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