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7-16「気づいた瞬間」

「……違う」


口に出した瞬間、自分でもはっきり分かった。


あれは“自然に転がった音”じゃない。


誰かが、わざと鳴らした。


ほんのわずかに、注意を引くために。


クレージュの背中に、じわっと汗が滲む。


「全員、止まれ」


声を落とす。


誰も動かない。


空気が、ぴたりと張りつく。


さっきまで感じていた“気配の薄さ”が、逆に濃くなる。


見えないものに囲まれているような感覚。


アルシェリアが小さく言う。


「囲まれてる」


やっぱりか、とクレージュは思った。


嫌な予感は、当たるときほど静かだ。


フレイが舌打ちする。


「気づくのが遅れたな」


「いや、最初からそのつもりだ」


クレージュは視線をゆっくり巡らせる。


崩れた壁。


屋根の影。


割れた窓の奥。


どこにでも潜める。


どこからでも来られる。


「出てこいよ」


わざと、少しだけ大きめに声を出す。


反応を見るためだ。


一瞬の沈黙。


そのあと――


ガラッ


右側の壁が崩れた。


いや、“崩された”。


中から灰色の塊が飛び出す。


速い。


視界に入った瞬間には、もう間合いに入っている。


「来たぞ!」


フレイの声と同時に、剣が振られる。


ガキィン!!


硬い音が弾ける。


火花が散る。


だが、それで終わらない。


背後。


気配。


クレージュは反射で体を捻る。


風が頬をかすめる。


遅れて、衝撃。


後ろの壁が粉々に砕けた。


「……っぶねぇ!」


心臓が跳ねる。


完全に読まれている。


「数は!」


「四……いや、六!」


アルシェリアの声。


次の瞬間には、さらに増える。


影から、屋根から、地面すれすれから。


じわじわと“湧いてくる”。


「キリがないタイプか……!」


フレイが吐き捨てる。


その横で、リシェルが男を庇うように位置を取る。


「ここは私が抑えます!」


「無茶すんな!」


「分かってます!」


言い返す声に、いつもの強さが戻っている。


クレージュは一瞬だけ安心した。


その一瞬の隙を、敵は逃さない。


正面。


一直線に突っ込んでくる。


四足の個体。


低い姿勢で、地面を削りながら。


(速い)


踏み込む。


だが――


足が、ほんのわずかに遅れる。


「……っ!」


間に合わない。


そう思った瞬間。


横から衝撃。


フレイが体当たりのように割り込んできた。


ドォン!!


二人まとめて弾き飛ばされる。


地面を転がる。


背中に硬い感触。息が詰まる。


「……ぐっ!」


肺の空気が一気に抜ける。


咳き込みながらも、すぐに顔を上げる。


フレイが片膝をついていた。


「ぼーっとすんな!」


「助かった!」


短く言い合う。


その間にも、敵は止まらない。


囲みを狭めてくる。


逃げ場を削るように、じりじりと。


クレージュは立ち上がる。


足に力を込める。


まだ、動く。


「ここで止める」


低く言う。


自分に言い聞かせるように。


「一体でも抜けられたら終わりだ」


背後には、負傷者。


リシェル。


そして街の中。


ここで止めるしかない。


胸の奥が、強く鳴る。


ドクンッ


さっきまでとは違う。


もっと近い。


もっと深い。


(……来る)


クレージュは剣を握り直した。


掌の汗が、冷たくなっている。


呼吸を整える。


視界が、研ぎ澄まされる。


その時。


奥の影が、ゆっくりと動いた。


今までの個体とは、明らかに違う。


大きい。


輪郭が歪んでいる。


「……あれが、本命か」


誰かが呟いた。


答える必要はなかった。


空気が変わった。


さっきまでの“数”じゃない。


“質”が違う。


それが、一歩、前に出る。


地面が沈む。


その動きだけで、分かる。


(やばいな、これ)


でも――


クレージュは、口の端を少しだけ上げた。


「いいじゃねぇか」


声が自然と出る。


震えていない。


「まとめて来いよ」


次の瞬間、そいつが動いた。


空気が裂ける。


本当の意味での“戦い”が、始ま

お読みいただきありがとうございます。

次回もお楽しみに。

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