7-1「静かな歪み」
王都オベールロワイヤル。
空は、穏やかだった。
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数日前までの“歪み”は、もう見えない。
空は青く。
風は静かに流れている。
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だが――
誰もが知っている。
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「……戻ってないな」
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クレージュが呟く。
王城の中庭。
まだリハビリ中の身体で、ゆっくりと歩いている。
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「はい」
リシェルが隣で頷く。
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「空は綺麗ですけど」
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少しだけ、間。
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「“気配”は消えていません」
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アルシェリアも同意する。
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「残っている」
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目には見えない。
だが。
確実に“ある”。
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(向こう側……)
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クレージュは空を見上げる。
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あの時感じたもの。
あの巨大な存在。
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忘れられるわけがない。
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「……来るな」
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小さく呟く。
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エイドの声が即答する。
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「来る」
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一切の迷いなく。
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「しかも今度は」
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一瞬、間。
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「止められるとは限らない」
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重い言葉。
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その時。
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「クレージュ様」
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騎士が駆け寄ってくる。
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「王より召集です」
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クレージュが眉を上げる。
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「もうか?」
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リシェルが少しだけ息を呑む。
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「……来ましたね」
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王城・会議室。
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今回は、空気が違った。
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重臣だけではない。
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各国からの使者。
魔導師。
そして――
見慣れない装束の者たち。
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(なんだ……?)
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クレージュが入ると、視線が一斉に集まる。
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王が口を開く。
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「来たか」
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短く。
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「話は単純だ」
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その一言で、場が静まる。
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「王都の件は」
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「隠しきれなかった」
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ざわめき。
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当然だ。
あれほどの規模。
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隠せるはずがない。
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「各国が動いている」
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視線が、使者たちへ向く。
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一人が前に出る。
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「シルヴァ王国より」
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エルフ。
長い銀髪。
冷静な目。
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「“空の歪み”は我々の領域でも観測された」
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別の者。
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「ブノワ王国も同様だ」
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さらに。
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「獣王国でも確認されている」
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クレージュの目が見開く。
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(……王都だけじゃない)
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王が言う。
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「そうだ」
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一瞬、間。
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「“門”は一つではない」
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その言葉。
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場の空気が凍る。
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リシェルが小さく呟く。
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「……そんな」
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エイドの声が低くなる。
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「来るぞ」
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「“完全接続”」
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王は続ける。
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「各国は既に判断した」
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ゆっくりと。
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「これは国家間の問題ではない」
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一瞬の間。
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「“世界規模の危機”だ」
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その言葉で。
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全ての前提が変わる。
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クレージュは静かに言う。
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「……じゃあ」
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視線を上げる。
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「どうするんですか」
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王は迷わない。
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「叩く」
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即答。
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「発生源を特定し」
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「全てを断つ」
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クレージュが笑う。
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「やっぱりそれか」
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シンプル。
だが。
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最も難しい。
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その時。
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エイドの声がわずかに変わる。
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「……見つけた」
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クレージュが反応する。
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「何を」
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一瞬の沈黙。
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そして。
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「“最初の門”だ」
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全員の視線が集まる。
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エイドが続ける。
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「位置は――」
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一瞬、間。
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「ヴィルサントル近郊」
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クレージュの目が見開く。
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(……最初の場所)
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物語の始まりの地。
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そこが――
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“起点”。
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王が言う。
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「決まったな」
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一言。
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「出るぞ」
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クレージュは静かに息を吐く。
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(……また始まる)
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だが。
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今度は違う。
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“世界を守る戦い”。
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リシェルが隣で言う。
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「行きましょう」
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アルシェリアも頷く。
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「終わらせる」
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クレージュは剣を握る。
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「……ああ」
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空は静かだ。
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だが。
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その奥では。
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確実に。
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“何か”が動いている。
お読みいただきありがとうございます。
次回もお楽しみに。




