6-20「境界の向こうへ」
夜明け前。
王都オベールロワイヤルの上空。
かすかに残る“歪み”。
それが――
ゆっくりと開き始めていた。
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「時間だ」
エイドの声が響く。
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クレージュは剣を握る。
隣にはリシェル。
そしてアルシェリア。
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三人が並ぶ。
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下では、フランソワーズとフレイが待機している。
騎士団も展開済み。
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「行ってこい」
フレイが言う。
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「任せろ」
クレージュが答える。
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フランソワーズは何も言わない。
ただ、深く頷く。
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それで十分だった。
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エイドの声。
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「今なら安定している」
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歪みが広がる。
門が、開く。
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その奥は――
“何もない”。
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だが。
確かに“ある”。
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「……行くぞ」
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クレージュが踏み出す。
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一歩。
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その瞬間。
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世界が、反転した。
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「――ッ!!」
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重力が消える。
上下が分からない。
音が消える。
光が歪む。
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身体が引き裂かれるような感覚。
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「リシェル!!」
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「ここです!」
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声だけが頼り。
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アルシェリアの気配もある。
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だが。
見えない。
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(どこだ……!?)
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その時。
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ドクンッ
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何かが、繋がる。
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三点干渉。
無意識に発動していた。
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その瞬間。
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視界が“固定”される。
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「……っ!」
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見える。
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そこは――
“空間”ではなかった。
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色が存在しない。
距離の概念が曖昧。
遠いはずのものが近くにあり、
近いものが無限に遠い。
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そして。
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無数の“線”。
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世界を構成するような、細い光。
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それが、空間を走っている。
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「……ここが」
クレージュが呟く。
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エイドの声が響く。
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「“境界層”だ」
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リシェルが震えた声で言う。
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「気持ち悪い……」
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無理もない。
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ここは“世界”ではない。
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“世界と世界の間”だ。
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アルシェリアが言う。
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「長くいられない」
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その通りだった。
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感覚が削られていく。
意識が薄くなる。
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クレージュが歯を食いしばる。
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「急ぐぞ」
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目的は一つ。
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“核”。
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エイドが指示を出す。
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「流れを見ろ」
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「一番強い場所だ」
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クレージュは目を細める。
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線の流れ。
密度。
歪み。
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(……あそこか)
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一点だけ。
明らかに“濃い”。
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「見つけた」
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指差す。
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リシェルとアルシェリアが頷く。
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三人で進む。
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歩いているのか。
飛んでいるのか。
分からない。
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だが確実に近づいている。
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その時。
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ズ…………
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空間が震える。
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「来る」
アルシェリアが言う。
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振り向く。
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“それ”がいた。
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使徒。
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だが――
さっきとは違う。
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より巨大。
より歪。
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「……防衛機構」
エイドが呟く。
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「核の守護だ」
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使徒が口を開く。
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「――侵入者確認」
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「排除」
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クレージュが剣を構える。
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「邪魔だ!!」
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踏み込む。
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三点干渉。
即時発動。
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ドクンッ!!
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七秒。
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だが。
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身体が軋む。
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(もってくれ……!)
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使徒が迫る。
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空間ごと歪ませながら。
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衝突。
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バチィィィン!!!!
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今までとは違う。
ここでは。
“全てが重い”。
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剣も。
力も。
存在も。
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「……っ!」
押される。
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リシェルが叫ぶ。
「支えます!」
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光が流れ込む。
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アルシェリアが補強する。
「固定」
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クレージュが歯を食いしばる。
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(ここで止める……!)
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核まで、あと少し。
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だが。
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使徒が再び動く。
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「――適応開始」
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その言葉で。
空気が変わる。
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「……なに?」
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次の瞬間。
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クレージュの剣が――
“通らなくなる”。
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「……!?」
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エイドの声が鋭くなる。
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「まずい」
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「学習している」
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クレージュの目が見開かれる。
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(進化してる……!?)
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時間がない。
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「強行突破だ!!」
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三人が同時に踏み込む。
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核へ。
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だが――
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使徒が立ちはだかる。
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完全に。
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遮断。
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「……間に合わない」
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アルシェリアが呟く。
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その時。
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クレージュの中で、何かが弾ける。
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(まだだ)
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(まだ“先”がある)
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だが。
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届かない。
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まだ。
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「――ッ!!」
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限界。
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三点干渉が、崩れる。
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視界が揺れる。
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意識が飛びかける。
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その瞬間。
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リシェルの手が、強く握られる。
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「諦めません」
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その一言。
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クレージュの意識が戻る。
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アルシェリアも言う。
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「終わらせる」
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三人の意志が、重なる。
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だが。
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足りない。
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あと一歩。
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その“一歩”が――
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遠い
お読みいただきありがとうございます。
次回もお楽しみに。




