6-19「前夜の静寂」
夜。
王都オベールロワイヤルは、静かだった。
戦いの傷は残っている。
だが、人は動き続けている。
修復。
見回り。
そして――
明日に備えるために。
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クレージュは屋根の上にいた。
街を見下ろす。
灯りは少ない。
だが。
完全に消えてはいない。
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(守ったんだよな、一応)
苦笑する。
だが、すぐに消える。
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(まだ終わってない)
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背後から足音。
振り向かなくても分かる。
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「……やっぱりここにいましたね」
リシェルだった。
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「なんとなくな」
クレージュが答える。
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少しだけ沈黙。
風が吹く。
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リシェルが言う。
「明日、行きますね」
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クレージュは頷く。
「ああ」
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「怖くないですか?」
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前にも聞いた質問。
だが今回は、少し違う。
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クレージュは考える。
少しだけ。
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「……怖いよ」
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正直に。
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「死ぬかもしれないしな」
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リシェルは小さく息を呑む。
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だが。
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「でも」
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クレージュが続ける。
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「やるしかないだろ」
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シンプルな答え。
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リシェルは、少しだけ笑う。
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「やっぱり同じですね」
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二人の間に、静かな空気が流れる。
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その時。
別の足音。
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「お二人とも、こんなところに」
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フランソワーズだった。
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「見回りか?」
クレージュが聞く。
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「ええ、それもありますが」
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少しだけ、言葉を選ぶ。
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「……確認です」
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クレージュが眉を上げる。
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「何の?」
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フランソワーズは、真っ直ぐに見る。
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「覚悟です」
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その言葉。
重い。
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「姫様を預ける以上」
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一瞬、間。
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「必ず連れて帰る覚悟があるか」
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試すような目。
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クレージュは即答する。
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「ある」
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一切の迷いなし。
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フランソワーズは目を細める。
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「……そうですか」
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それだけで十分だった。
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「ならば」
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剣に手をかける。
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「外は任せてください」
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クレージュが笑う。
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「頼りにしてます」
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フランソワーズは小さく頷き、その場を去る。
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静寂が戻る。
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その後ろ姿を見ながら、リシェルが呟く。
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「……強いですね」
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クレージュが答える。
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「ああ」
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そして。
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「でも、一番強いのはあんただろ」
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リシェルが驚いたように見る。
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「え?」
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クレージュは肩をすくめる。
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「だってよ」
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少しだけ笑う。
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「一番狙われてるのに、逃げないんだろ?」
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リシェルは一瞬、言葉を失う。
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そして。
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静かに笑う。
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「……逃げたくないんです」
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その目は、真っ直ぐだった。
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「守られるだけは、嫌なんです」
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クレージュは頷く。
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「いいじゃん」
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それで十分だった。
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その時。
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「いい雰囲気だな、おい」
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軽い声。
フレイだった。
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「盗み聞きかよ」
クレージュが言う。
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「聞こえてくるんだよ」
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フレイは隣に座る。
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「明日、行くんだろ」
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「ああ」
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フレイは少しだけ空を見る。
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「……死ぬなよ」
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短い言葉。
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クレージュは笑う。
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「善処する」
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フレイが小さく笑う。
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「それでいい」
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一瞬の沈黙。
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そして。
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「帰ってこい」
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今度は、はっきりと。
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クレージュは頷く。
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「当たり前だ」
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夜は、静かに過ぎていく。
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王都は眠らない。
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そして。
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明日。
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境界を越える。
お読みいただきありがとうございます。
次回もお楽しみに。




