6-17「残された歪み」
静寂が戻った。
だがそれは――
“終わり”ではない。
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王都オベールロワイヤル。
崩れた街並み。
立ち上る煙。
そして。
沈黙。
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使徒が倒れた場所。
そこには、大きなクレーターが残っていた。
だが。
それ以上に異様なのは――
空気だった。
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「……消えてない」
アルシェリアが呟く。
クレージュも頷く。
「ああ」
感じる。
確かに。
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(まだ“繋がってる”)
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完全に閉じたはずの門。
だが。
“痕跡”が残っている。
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エイドの声が響く。
「完全封鎖ではない」
「“遮断しただけ”だ」
クレージュが眉をひそめる。
「違いは?」
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「時間だ」
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短い答え。
だが重い。
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「いずれ、また開く」
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その言葉に。
全員が沈黙する。
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フランソワーズが剣を収める。
「……つまり」
「終わっていない、ということだな」
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誰も否定しない。
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リシェルがゆっくりと立ち上がる。
まだふらついている。
だが、その目は強い。
「次は……もっと大きく来ます」
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クレージュが苦笑する。
「だろうな」
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フレイが言う。
「だったら準備するだけだ」
シンプルな答え。
だが、それでいい。
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その時。
遠くから、騎士団が駆け寄ってくる。
「無事か!」
「こちらの状況は!?」
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フランソワーズが応じる。
「敵は停止した!」
「だが警戒を解くな!」
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騎士たちが動き出す。
負傷者の確認。
周囲の警戒。
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だが。
その顔には、明らかな変化があった。
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“恐怖”ではない。
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“理解”だ。
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(これは、戦争じゃない)
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誰もが気づき始めていた。
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王城・謁見の間。
再び重臣たちが集まっていた。
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「……報告を」
王の声は変わらない。
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側近が答える。
「敵性存在――“使徒”と呼称」
「撃破ではなく停止」
「原因は不明、だが王女の光とクレージュ殿の干渉によるものと推測」
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ざわめき。
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「門は閉じたのか?」
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「完全ではありません」
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その一言で、空気が凍る。
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王が静かに言う。
「続けろ」
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「空間に“歪み”が残留」
「再発の可能性、極めて高い」
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沈黙。
重い。
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王はゆっくりと立ち上がる。
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「……認識を改める」
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その一言で、場の空気が変わる。
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「これは侵略ではない」
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間。
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「“接続”だ」
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誰も言葉を発せない。
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王は続ける。
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「敵は攻めているのではない」
「繋げようとしている」
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その言葉の意味。
全員が理解するまでに、数秒かかる。
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「では……」
重臣の一人が震えた声で言う。
「向こう側が……こちらに来ると?」
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王は否定しない。
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「その通りだ」
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完全な沈黙。
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世界の前提が、変わった瞬間だった。
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王はクレージュを見る。
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「貴様らは、それを止めた」
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評価。
だが同時に。
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「だが一時的だ」
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現実。
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クレージュは頷く。
「……分かってます」
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王は続ける。
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「ならば次は」
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その声が、低くなる。
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「止めるのではなく」
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一瞬の間。
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「断て」
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その言葉で。
戦いの意味が変わる。
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クレージュの目が細くなる。
(断つ……)
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エイドの声。
「つまり」
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「“門そのもの”を壊せってことだ」
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アルシェリアが小さく言う。
「可能」
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だが。
続ける。
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「ただし――」
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クレージュが聞く。
「ただし?」
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「向こう側に触れる必要がある」
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その意味。
理解した瞬間。
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リシェルが息を呑む。
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「……危険です」
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エイドが即答する。
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「危険じゃない」
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一瞬の間。
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「ほぼ死ぬ」
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沈黙。
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フレイが笑う。
「分かりやすくていいな」
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クレージュは空を見る。
もう歪みは見えない。
だが。
確実にそこにある。
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(向こう側……)
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まだ見ぬ場所。
未知の存在。
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そして。
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「……行くしかないな」
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小さく呟く。
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リシェルが隣に立つ。
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「一緒に行きます」
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迷いはない。
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アルシェリアも言う。
「当然」
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フレイが肩をすくめる。
「若いなぁ」
だが。
その目は笑っていない。
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フランソワーズが静かに言う。
「ならば」
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剣を握る。
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「全力で守る」
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それが答えだった。
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王都は、変わった。
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そして。
物語は――
次の段階へ。
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次回もお楽しみに。




