6-14「歪みの前兆」
王都の空気が、変わった。
誰もが気づくレベルではない。
だが――
“何か”がおかしい。
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クレージュは訓練区画の中央に立っていた。
剣を握る。
(来る)
理由はない。
だが確信があった。
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リシェルも同じように空を見ている。
「……重いです」
小さく呟く。
フランソワーズが眉をひそめる。
「空気が、か?」
リシェルは首を振る。
「違います」
「もっと……奥です」
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その瞬間。
ズンッ……
低い振動。
地面がわずかに揺れる。
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エイドの声が響く。
「……始まったな」
クレージュの目が細くなる。
「何が」
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「“開門”の準備だ」
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次の瞬間。
王都の上空。
空が――
歪んだ。
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「……っ!?」
誰もが空を見上げる。
青空の一部が、ねじれるように揺らぐ。
まるでガラスの向こう側に、別の世界があるように。
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そして。
ヒビのような線が、走る。
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「……冗談だろ」
フレイが低く呟く。
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そのヒビの中から。
“何か”が覗く。
影。
形は定まらない。
だが――
巨大。
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ゾワッ
全身が粟立つ。
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クレージュが歯を食いしばる。
(あれが……)
(開門……?)
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その時。
空間が弾ける。
バチィン!!
王都各所に、同時に。
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灰色兵器。
だが――
今までとは違う。
数が多い。
そして。
“歪んでいる”。
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「全域同時展開!」
フランソワーズが叫ぶ。
「配置につけ!」
騎士たちが一斉に動く。
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クレージュは剣を握る。
「……行くぞ」
リシェルとアルシェリアが並ぶ。
「はい」
「準備完了」
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だがその時。
エイドの声が鋭くなる。
「待て」
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全員が止まる。
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「今回は違う」
「ただの戦闘じゃない」
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次の瞬間。
一体の灰色兵器が、ゆっくりと歩み出る。
他とは違う。
明らかに。
“核”が濃い。
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そして。
口を開いた。
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「――確認」
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言葉。
初めて。
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クレージュの目が見開く。
(喋った……!?)
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「媒介、存在確認」
「光、存在確認」
「欠片、存在確認」
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ゆっくりと。
こちらを見る。
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「対象、確定」
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その瞬間。
空気が凍る。
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クレージュが踏み込む。
「来るぞ!!」
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灰色兵器が動く。
速い。
だが――
読める。
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「合わせろ!」
三人が同時に動く。
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ドクンッ
流れが繋がる。
三点干渉。
発動。
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だが今回は違う。
クレージュが“掴んでいる”。
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(維持する……!)
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三秒。
一秒。
二秒。
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まだいける。
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「……っ!!」
身体が軋む。
だが――
切れない。
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四秒。
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リシェルの目が見開く。
「伸びてます……!」
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アルシェリアも言う。
「安定してる」
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クレージュが叫ぶ。
「今だ!!」
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斬撃。
完全な同期。
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ズガァァァン!!!!
灰色兵器が吹き飛ぶ。
今までとは違う。
圧倒的な一撃。
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だが。
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止まらない。
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ヒビの入った空。
その向こう。
“何か”が、さらに近づいてくる。
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ズ……ズズ……
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空間が軋む。
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エイドの声が低くなる。
「……まずいな」
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クレージュが叫ぶ。
「何がだ!」
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「予定より早い」
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一瞬の間。
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「“開く”ぞ」
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その言葉と同時に。
空のヒビが――
大きく広がる。
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光でも闇でもない。
“別の何か”が、そこから溢れ出す。
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王都全体が震える。
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リシェルが呟く。
「……来ます」
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クレージュは剣を構える。
震えはない。
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「……上等だ」
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未完成でもいい。
四秒でもいい。
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それでも。
止める。
お読みいただきありがとうございます。
昨日の投稿が体調不良のためできませんでした。
申し訳ありません。
次回もお楽しみに。




