6-8「閉ざされた戦場」
空間が、閉じた。
外の気配が消える。
音も、風も、切り離された。
そこにあるのは――
重圧だけ。
⸻
クレージュはゆっくりと息を吐く。
剣を構える。
(逃げ場なし)
なら。
やることは一つ。
「……叩き潰す」
低く呟く。
グラディオがわずかに笑う。
「いい判断だ」
「だが」
一歩、踏み出す。
それだけで――
空気が歪む。
「遅い」
消えた。
次の瞬間。
「っ!!」
フランソワーズが反応する。
ギィン!!
剣がぶつかる。
火花。
だが押される。
「速い……!」
クレージュも踏み込む。
横から斬り込む。
だが。
スカッ
空を切る。
(また位相か……!)
エイドの声が響く。
「違う」
「今のは純粋な速度だ」
クレージュの目が細くなる。
(……上げてきてる)
グラディオが静かに言う。
「先ほどの玩具とは違う」
「これは“本体”だ」
⸻
アルシェリアが前に出る。
「行く」
欠片が輝く。
灰色の力が溢れる。
クレージュと並ぶ。
呼吸が合う。
(いける)
踏み込む。
同時に。
二つの力が重なる。
斬撃。
衝撃。
バチィィン!!
確かな手応え。
だが――
浅い。
グラディオは一歩下がるだけ。
「不完全だ」
その瞬間。
反撃。
掌が振られる。
ドンッ!!
衝撃波。
クレージュが吹き飛ぶ。
床を転がる。
「ぐっ……!」
アルシェリアも弾かれる。
壁に叩きつけられる。
⸻
フランソワーズが即座に詰める。
「貴様ァ!!」
連撃。
速い。
重い。
だが。
グラディオは最小限で受け流す。
「技は優秀だ」
「だが、届かない」
次の瞬間。
ガンッ!!
フランソワーズが膝をつく。
「……っ!」
致命傷ではない。
だが。
差は明確だった。
⸻
リシェルが前に出る。
光が広がる。
「下がってください!」
その声に、全員の動きが一瞬止まる。
グラディオの目が細くなる。
「それだ」
「その光だ」
リシェルは構える。
「あなたには渡しません」
グラディオは淡々と言う。
「渡す必要はない」
「奪うだけだ」
⸻
その瞬間。
空間が歪む。
グラディオが一直線に踏み込む。
狙いは――
リシェル。
「させるか!」
クレージュが割り込む。
剣を振るう。
全力。
アルシェリアの力も重ねる。
バチィィィン!!!
衝突。
今度は――
止めた。
一瞬だけ。
グラディオの動きが止まる。
その隙。
リシェルの光が流れ込む。
「今です!」
空気が変わる。
三つの力。
再び重なる。
だが――
揺れる。
不安定。
「……まだ足りない」
アルシェリアが呟く。
グラディオが冷静に言う。
「だから未完成だ」
そのまま押し返す。
ドンッ!!
クレージュが後退。
足が滑る。
(くそ……!)
⸻
その時。
クレージュの中で、何かが引っかかる。
(さっき……)
(タイミングで当てた)
位相ズレ。
周期。
同期。
リシェルの言葉。
――一瞬だけ“こちら側”に来る
エイドの声。
「見えているはずだ」
「流れを」
クレージュの視界が変わる。
魔力の流れ。
グラディオの動き。
ほんのわずかな“ズレ”。
(……ここだ)
踏み込む。
一瞬。
呼吸を合わせる。
「アルシェリア!」
「分かってる」
「リシェル!」
「はい!」
三人の声が重なる。
そして――
「今だ!!」
完全に同期する。
剣が振るわれる。
バチィィィィン!!!!!!
今までとは違う。
深い一撃。
グラディオの身体がわずかに揺れる。
初めて。
明確に。
「……ほう」
その口から漏れる。
「今のは良い」
⸻
だが。
次の瞬間。
空気が変わる。
圧が跳ね上がる。
グラディオの周囲に、濃い灰色が渦巻く。
「評価はしてやる」
「だが」
目が細くなる。
「ここまでだ」
その言葉と同時に――
魔法陣が再び脈動する。
床。
壁。
天井。
全てが共鳴する。
「……!?」
リシェルが息を呑む。
アルシェリアが言う。
「来る」
エイドの声が低くなる。
「これはまずい」
クレージュが構える。
(何をする気だ……!)
グラディオが手をかざす。
「“鍵”の強制起動」
その言葉。
リシェルの身体が、ビクッと震える。
「……っ!」
光が暴れ始める。
制御が乱れる。
「リシェル!」
クレージュが叫ぶ。
グラディオは淡々と言う。
「媒介としては十分だ」
「そのまま引き出す」
⸻
リシェルが膝をつく。
「く……っ……!」
光が溢れる。
暴走しかけている。
フランソワーズが叫ぶ。
「姫様!」
クレージュが歯を食いしばる。
(止めないと――)
アルシェリアが言う。
「今しかない」
「完成させる」
クレージュの目が変わる。
(完成……?)
「できるのか」
アルシェリアは即答する。
「やるしかない」
エイドが補足する。
「成功率は低い」
「だが、他に手はない」
クレージュは一瞬だけ目を閉じる。
そして――
開く。
「……やる」
リシェルの元へ踏み込む。
手を伸ばす。
「リシェル!」
彼女が顔を上げる。
苦しみながらも。
それでも。
頷いた。
⸻
三人の力が――
再び、重なろうとする。
だが今度は。
“強制的に”。
“未完成のまま”。
限界の先へ。
お読みいただきありがとうございます。
次回もお楽しみに。




