6-7「王城の内側」
王城オベールロワイヤル。
その最深部に向かって、クレージュは駆けていた。
屋根から壁へ。
壁から回廊へ。
迷いはない。
(あの魔力……)
間違いない。
今までの灰色兵器とは“質”が違う。
もっと深い。
もっと――
意図的な力。
⸻
回廊に降り立つ。
その瞬間。
「止まれ!」
騎士が剣を向ける。
クレージュは即座に言う。
「敵が内部にいる!」
「王城が狙われてる!」
騎士は一瞬迷い――
そして頷く。
「……通れ!」
扉が開く。
奥へ。
さらに奥へ。
⸻
その途中。
違和感。
(……人が少ない)
警備が、薄い。
いや。
“いない”。
クレージュの足がわずかに止まる。
(おかしい)
次の瞬間。
カツン――
足音。
回廊の奥。
一人の騎士が立っていた。
背を向けたまま。
動かない。
「……おい」
声をかける。
反応がない。
ゆっくりと近づく。
そして。
肩に手をかけた瞬間――
グラリ
倒れる。
「……っ!」
血。
既に息はない。
(やられてる……!)
その時。
背後。
気配。
反射で振り向く。
剣を振る。
ギィン!!
確かな手応え。
だが――
そこにいたのは。
騎士。
「なっ……!」
だが目が違う。
焦点が合っていない。
肌に、わずかな灰色の紋。
「……操られてるのか」
低く呟く。
騎士が無言で斬りかかる。
速い。
正確。
完全に“戦闘用”。
クレージュは受け止める。
「くっ……!」
(殺すのか……?)
一瞬の迷い。
その隙。
ガンッ!!
吹き飛ばされる。
壁に叩きつけられる。
「ぐっ……!」
騎士が追撃。
迷いが命取りになる。
アルシェリアの声。
「甘い」
クレージュの目が変わる。
(……分かってる)
踏み込む。
剣を振るう。
急所は外す。
腕を狙う。
バキンッ!!
剣を弾き飛ばす。
続けて――
衝撃で意識を刈り取る。
騎士が崩れ落ちる。
「……生きてるな」
短く確認。
息はある。
(まだ助けられる)
だが。
この状態。
つまり――
「内部にいる」
確信に変わる。
⸻
その時。
ゆっくりと、拍手の音。
パチ……パチ……パチ……
回廊の奥。
影の中から、現れる。
「よく来た」
グラディオ。
静かに笑っていた。
「誘導は成功だ」
クレージュの目が細くなる。
「……最初からこれが狙いか」
グラディオは頷く。
「王都全体を騒がせれば」
「主戦力は分散する」
「その隙に内部へ」
クレージュが言う。
「で?」
「王城で何をする」
グラディオの目がわずかに細くなる。
「“鍵”の回収だ」
その言葉。
空気が変わる。
クレージュの中で、嫌な予感が走る。
「鍵……?」
グラディオは答えない。
代わりに。
ゆっくりと手を上げる。
その瞬間。
床に刻まれた紋様が、光る。
「……っ!?」
魔法陣。
気づかなかった。
いや。
“最初からあった”。
「起動」
グラディオの声。
次の瞬間。
ズンッ!!
空間が歪む。
重い圧。
まるで王城そのものが引きずられるような感覚。
「何を……!」
クレージュが踏み込もうとする。
だが。
足が重い。
動きが鈍る。
(拘束……!?)
グラディオが淡々と言う。
「これは転移ではない」
「“固定”だ」
「この場所を、切り離す」
クレージュの理解が追いつく。
(まさか――)
「王城ごと……!?」
グラディオはわずかに笑う。
「一部だけだ」
「だが、それで十分」
⸻
その時。
光が差し込む。
「クレージュ!」
リシェル。
そして――
フランソワーズ。
間に合った。
フランソワーズが即座に斬り込む。
「貴様ァ!!」
グラディオが軽く避ける。
「遅い」
だが。
その隙。
クレージュの拘束がわずかに緩む。
「……今だ!」
アルシェリアが言う。
「壊せ」
クレージュは踏み込む。
魔法陣へ。
剣を叩き込む。
バキィン!!
紋様が揺らぐ。
だが。
完全には壊れない。
グラディオが呟く。
「不完全だな」
「やはり“鍵”が必要か」
その言葉。
リシェルの表情がわずかに変わる。
クレージュは見逃さなかった。
(……まさか)
グラディオの視線もまた、リシェルへ。
「見つけた」
静かに。
確信を持って。
言う。
「王女」
空気が凍る。
フランソワーズが前に出る。
「下がってください!」
グラディオは続ける。
「光属性」
「純度の高い魔力」
「条件は揃っている」
クレージュの中で、全てが繋がる。
(鍵って……)
(リシェルか……!?)
⸻
次の瞬間。
灰色の魔力が弾ける。
グラディオが一歩踏み出す。
「回収する」
クレージュが立ちはだかる。
「させるかよ」
アルシェリアが並ぶ。
「来る」
リシェルの光が強くなる。
フランソワーズが剣を構える。
「ここで止める!」
四人。
対峙。
その中心で。
グラディオが静かに笑う。
「ようやく揃ったな」
その言葉と同時に――
空間が、完全に閉じた。
逃げ場はない。
ここが。
戦場になる。
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