6-6「見えない侵入者」
夜の王都は、不自然な静けさに包まれていた。
灯りは少ない。
人の気配も、抑えられている。
まるで――
“何か”を待っているように。
⸻
クレージュは屋根の上に立っていた。
視線を巡らせる。
(……静かすぎる)
戦闘の後とは思えないほどの、異様な静寂。
エイドの声が頭に響く。
「気を抜くな」
「これは“間”だ」
クレージュは小さく頷く。
その瞬間――
ゾワッ
空気が、揺れた。
「……来る!」
同時に。
ガンッ!!!
遠くで、何かが弾けた音。
続けて――
「きゃああああっ!!」
悲鳴。
南東区画。
クレージュは跳ぶ。
屋根を蹴り、一気に加速。
「アーニャ!」
通信のように叫ぶ。
すぐに返事。
「聞こえてるにゃ!」
「でも敵が見えない!」
その言葉に、目が細くなる。
(見えない?)
現場に到着する。
そこでは。
騎士たちが、空間に向かって剣を振っていた。
だが――
当たっていない。
何もない空間。
なのに。
次の瞬間。
ドンッ!!!
騎士の一人が吹き飛ぶ。
「がはっ……!」
クレージュは歯を食いしばる。
(姿がない……!)
違う。
“見えていない”だけだ。
「気配はある!」
「でも輪郭が……!」
アーニャが叫ぶ。
地面に伏せ、耳を澄ませている。
「上にいるにゃ!!」
その瞬間。
クレージュは反射的に跳ぶ。
空中で剣を振る。
ギィンッ!!
硬い感触。
何かに当たった。
「いたな!」
だが。
姿は見えない。
輪郭が歪んでいる。
まるで空気と同化しているかのように。
⸻
その時。
フランソワーズが駆け込む。
「状況は!」
クレージュが答える。
「不可視型!」
「魔力の屈折か、空間干渉!」
フランソワーズの目が鋭くなる。
「厄介だな……」
その直後。
空間が歪む。
複数。
「……数が増えている」
エイドの声。
「三体以上確認」
クレージュが息を吐く。
(同時かよ……!)
⸻
その時だった。
リシェルの声が響く。
「光で“輪郭”を出せます!」
振り向く。
リシェルが来ていた。
「だからなんで来るんですか!」
思わず言う。
リシェルは即答する。
「必要だからです!」
もう止まらない。
クレージュは苦笑する。
「……頼みます!」
リシェルが両手を広げる。
光が広がる。
柔らかく。
だが確実に。
空間を“照らす”。
その瞬間。
――浮かび上がった。
ぼやけた輪郭。
人型。
灰色。
「……見えた!」
アーニャが跳ぶ。
「行くにゃ!」
高速の連撃。
一体を捉える。
ガガガッ!!
だが。
「硬いにゃ!」
クレージュも踏み込む。
剣を振るう。
ギィィン!!
確かに当たる。
だが浅い。
「装甲も強化されてる!」
フランソワーズが指示を飛ばす。
「連携を崩すな!」
「一体ずつ削れ!」
⸻
だが。
次の瞬間。
ズレた。
空間が。
「……!?」
クレージュの剣が空を切る。
さっきまでそこにいたはずの敵が――
いない。
「転移……!?」
エイドが否定する。
「違う」
「位相をずらしている」
「同一座標にいながら、干渉を外している」
クレージュの理解が追いつく前に――
ドンッ!!!
背後から衝撃。
吹き飛ばされる。
「くっ……!」
地面を滑る。
血の味。
(見えても当たらない……!)
アルシェリアが現れる。
「厄介」
「これは“対策”」
グラディオの言葉が蘇る。
――対策済みだ。
⸻
クレージュは立ち上がる。
息を整える。
(どうする)
見えている。
だが当たらない。
攻撃が“すり抜ける”。
その時。
リシェルが言う。
「流れが……ズレてます」
クレージュが振り向く。
「ズレ?」
「はい」
「ほんの一瞬だけ」
「存在が“こちら側”に来る瞬間があります」
エイドが反応する。
「……なるほど」
「完全な分離ではない」
「周期的な同期がある」
クレージュの目が変わる。
(なら)
「その瞬間を叩く!」
アルシェリアが頷く。
「合わせる」
リシェルが集中する。
「タイミング、伝えます!」
⸻
静寂。
ほんの一瞬。
世界がスローモーションになる。
リシェルの声。
「――今!」
クレージュが踏み込む。
アルシェリアと同時に。
流れを合わせる。
剣を振るう。
バチィィン!!!
今度は違う。
確かな手応え。
灰色の装甲が割れる。
「通った!」
アーニャが追撃。
「にゃあああっ!!」
連撃。
フランソワーズが斬り込む。
「ここだ!」
連携が重なる。
そして――
ドォンッ!!
一体、撃破。
⸻
だが。
残り二体。
空間が歪む。
消える。
そして。
別の場所で、再び悲鳴。
「くそっ……!」
クレージュが歯を食いしばる。
その時。
エイドの声。
「目的は殲滅じゃない」
「攪乱だ」
「王都全体を“分断”している」
クレージュの中で、何かが繋がる。
(……違う)
(これは前座だ)
その瞬間。
遠く。
王城の方向。
巨大な魔力反応。
ズンッ……
空気が震える。
全員がそちらを見る。
エイドが低く言う。
「本命が来る」
クレージュの目が鋭くなる。
「……あっちか」
リシェルも頷く。
「はい」
フランソワーズが即断する。
「ここは任せろ!」
「クレージュ、王城へ!」
アーニャも叫ぶ。
「早く行くにゃ!」
クレージュは一瞬だけ迷い――
すぐに決める。
「頼みます!」
屋根を蹴る。
全速力。
王城へ。
夜を切り裂くように。
⸻
その先に待つのは。
“次の段階”。
そして――
グラディオの、本当の狙い。
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次回もお楽しみに。




