6-5「戦いのあと
王都に、ようやく静けさが戻りつつあった。
崩れた建物。
焦げた石畳。
運び出される瓦礫。
そして――
疲れきった人々の顔。
南区画の広場では、負傷者の手当てが続いていた。
騎士団と医療班が走り回り、
市民たちが互いに支え合っている。
「こっちに担架を!」
「水を持ってきてくれ!」
「まだ生きてる、急げ!」
その光景を、クレージュは黙って見ていた。
(……間に合った)
だが。
すべてではない。
守れた命もあれば、守れなかったものもある。
フレイが隣に立つ。
「いい顔してねえな」
クレージュは小さく息を吐いた。
「全部は無理でした」
フレイは肩をすくめる。
「当たり前だ」
「それでも、十分やってる」
短い言葉。
だが、それで少しだけ肩の力が抜けた。
その時。
「クレージュ」
振り向く。
リシェルだった。
護衛に囲まれているが、その表情はいつも通りではない。
真剣だった。
「……ありがとう」
まっすぐ言う。
クレージュは少しだけ戸惑う。
「俺だけじゃないです」
「みんなが」
リシェルは首を振った。
「それでも」
「あなたがいなければ、もっと被害は大きかった」
その言葉は、重かった。
王女としてではない。
一人の人間としての言葉だった。
クレージュは少しだけ視線を逸らす。
「……仕事ですから」
リシェルが少しだけ笑う。
「そういうところ、変わらないわね」
一瞬だけ、空気が柔らかくなる。
だが。
アルシェリアが静かに言った。
「終わってない」
全員がそちらを見る。
「灰色は引いただけ」
「本気じゃない」
エイドも同意する。
「今回の襲撃は“確認”だ」
「戦力の測定」
フランソワーズが言う。
「つまり次は――」
「もっと大きい」
クレージュが言葉を継ぐ。
重い沈黙。
その時。
騎士が駆け込んできた。
「殿下!」
「王より招集です!」
リシェルの表情が引き締まる。
「……分かった」
クレージュを見る。
「来て」
短い一言。
だが、意味は明確だった。
――お前も必要だ。
王城へ向かう。
今度は戦闘ではない。
だが。
それ以上に重い場所。
玉座の間。
扉が開く。
王が座している。
周囲には重臣たち。
全員の視線が、一斉にクレージュに向いた。
「……報告は聞いた」
王の声が響く。
低く、重い声。
「よくやった」
クレージュは一礼する。
「ですが」
王は続ける。
「これは序章に過ぎん」
その言葉に、空気がさらに重くなる。
「灰色教団は、王都を標的にした」
「これはすでに“戦争”だ」
フランソワーズの目が鋭くなる。
フレイも口元を引き締める。
王はクレージュを見る。
「確認する」
「お前は、この戦いに関わる覚悟があるか」
静寂。
逃げ道はない。
クレージュは迷わなかった。
「あります」
はっきりと。
「守るために戦います」
王はわずかに頷いた。
「ならば」
短く言う。
「王国として、お前に正式に依頼する」
一瞬、場がざわつく。
「灰色教団の討伐」
「および――」
わずかに間を置く。
「星の導師の排除」
その言葉は、はっきりと告げられた。
敵の名前。
目的。
すべてが明確になる。
クレージュは静かに頷いた。
「了解しました」
その時だった。
アルシェリアが小さく呟いた。
「……来る」
全員が反応する。
エイドも同時に顔を上げる。
「……今度は近い」
王城の外。
空気が歪む。
次の瞬間。
王都の上空に――
巨大な灰色の魔法陣が展開された。
「……っ!?」
リシェルが息を飲む。
フランソワーズが叫ぶ。
「全軍、戦闘準備!」
クレージュは剣を握った。
これは。
今までとは違う。
「……本気だ」
空が、戦場になる。
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