5-20「追撃の先」
灰色研究所の中枢が崩壊したあと。
その場に残ったのは、静寂だった。
さきほどまで満ちていた歪んだ魔力は消え、
空気は、ゆっくりと正常へと戻っていく。
崩れた装置。
砕けた魔石。
灰色兵器の残骸。
すべてが、この場所の終わりを物語っていた。
フランソワーズが静かに言う。
「制圧完了」
短い報告。
だがその言葉には、確かな重みがあった。
フレイが大きく息を吐く。
「ひとまず一段落、ってところか」
アーニャが周囲を見回す。
「完全に気配ないにゃ」
エイドが補足する。
「敵は完全に撤退している」
「この拠点は放棄された」
クレージュはゆっくりと剣を収めた。
(終わった……のか)
だが。
そう単純ではないことも、分かっている。
これは――
“終わり”ではなく、“一つ潰しただけ”だ。
アルシェリアが、崩れた中枢を見つめていた。
その表情は、複雑だった。
安堵。
そして――
わずかな、痛み。
「……終わったね」
小さな声。
クレージュが隣に立つ。
「一区切りだな」
アルシェリアは頷いた。
「でも」
視線を上げる。
「まだ続く」
その言葉に、全員が同じ認識を持っていることが分かる。
フランソワーズが言う。
「ここは破壊しきる」
「再利用はさせない」
フレイが笑う。
「徹底的だな」
「当然だ」
フランソワーズは即答する。
「灰色を残す理由はない」
エイドが言う。
「情報の回収も必要だ」
「この施設には、まだ使える情報がある」
アーニャが言う。
「宝探しみたいにゃ」
フレイが肩をすくめる。
「命がけのな」
クレージュはもう一度、周囲を見た。
この場所で、どれだけのことが行われていたのか。
どれだけの人が関わり、壊されてきたのか。
それを考えると――
「……全部、終わらせる」
自然と口に出ていた。
フレイがニヤリとする。
「いい顔だ」
フランソワーズも小さく頷く。
アルシェリアがクレージュを見る。
その視線は、以前とは違っていた。
ただの観察ではない。
信頼が混じっている。
「……一緒にね」
小さく言う。
クレージュは答えた。
「ああ」
短い言葉。
だが、それで十分だった。
その時。
エイドがわずかに目を細めた。
「……来る」
全員が反応する。
だが。
これは戦闘ではない。
空気が、変わる。
静かに。
だが確実に。
「……これは」
アルシェリアが呟く。
「違う」
クレージュも感じていた。
灰色ではない。
もっと、別の何か。
高密度の魔力。
だが歪んでいない。
「……観測されている」
エイドが言う。
フレイが眉をひそめる。
「誰にだ」
次の瞬間。
空間が、わずかに揺らいだ。
声が響く。
直接ではない。
頭の奥に届くような声。
「――興味深い」
全員の動きが止まる。
クレージュの心臓が強く打つ。
この声は。
本能的に分かる。
「……星の導師」
アルシェリアが呟く。
その名に、空気が凍る。
声は続く。
「原初の器」
「そして欠片」
「予想以上だ」
フランソワーズが剣を構える。
「姿を現せ!」
だが、返答はない。
ただ声だけが響く。
「まだ未完成」
「だが――」
わずかな間。
「いずれ完成する」
クレージュが言う。
「させない」
はっきりと。
迷いなく。
声がわずかに変わる。
「意志か」
「いい」
「それでこそ価値がある」
アルシェリアが前に出る。
「ふざけないで」
「あなたのやってることは――」
言葉が止まる。
怒り。
そして、過去。
声はそれを遮る。
「正しいかどうかは問題ではない」
「必要かどうかだ」
その一言が、重く響く。
エイドが低く言う。
「危険思想だ」
声は続ける。
「世界は不完全だ」
「だから修正する」
クレージュは一歩前に出た。
「それが灰色か」
「そうだ」
即答だった。
「だが」
わずかに声が低くなる。
「君たちは違う」
クレージュの目が細くなる。
「何が言いたい」
「君たちは」
「完成形に近い」
空気が張り詰める。
「だから」
静かに。
だが確実に。
「いずれ、取りに行く」
その瞬間。
気配が消えた。
空間が元に戻る。
静寂。
誰もすぐには動かなかった。
フレイが最初に口を開く。
「……気に入らねえな」
アーニャが言う。
「ラスボス感すごいにゃ」
フランソワーズは剣を収めた。
「確定した」
「敵は、明確だ」
エイドも頷く。
「次は本拠」
アルシェリアは小さく息を吐いた。
「……来る」
クレージュは剣を握る。
逃げることはない。
守るものがある。
そして――
止めるべき相手がいる。
「行こう」
短く言う。
全員が頷く。
灰色研究所を後にする。
外の空は、澄んでいた。
だがその先に待つのは――
世界の核心。
原初。
そして。
星の導師。
物語は、次の段階へ進む。
物語は新たなフェーズへと進んでいきます。
次回もお楽しみに!




