5-19「残る真実」
灰色の柱が崩壊したあと。
研究所の中心は、静寂に包まれていた。
さきほどまで渦巻いていた魔力は消え、
歪んだ空気も、ゆっくりと正常へ戻っていく。
クレージュはその場に立ったまま、息を整えた。
「……終わったのか」
フランソワーズが周囲を見渡す。
「中枢は完全に沈黙している」
フレイが肩を回す。
「少なくとも、この施設は終わりだな」
アーニャが耳を動かす。
「敵の気配も消えたにゃ」
エイドが静かに言う。
「撤退した」
「判断が早い」
クレージュは奥を見つめた。
敵は戦わなかった。
いや――
戦えなかった。
「逃げた……のか」
アルシェリアが小さく言う。
「違う」
全員が彼女を見る。
「引いた」
「ここは“捨てた”」
フレイが眉をひそめる。
「拠点ごと?」
「ええ」
アルシェリアは頷く。
「灰色教団は研究優先」
「拠点は消耗品」
フランソワーズが言う。
「ならばここでの戦果は大きい」
「一つ潰した」
エイドは首を振った。
「そう単純ではない」
「ここは前線に過ぎない」
クレージュが聞く。
「本拠は別にあるってことか」
「そうだ」
エイドは続ける。
「そしてそこには」
一瞬だけ間を置く。
「より強い存在がいる」
クレージュは思い出す。
グラディオ。
セラフィーナ。
どちらも、本気ではなかった。
フレイが笑う。
「上がいるってことだな」
アルシェリアが静かに言った。
「いる」
その声は、少しだけ重かった。
「一人」
クレージュが見る。
アルシェリアはゆっくりと口を開いた。
「星の導師」
その名前が、静かに響く。
フランソワーズが反応する。
「教祖か」
「ええ」
アルシェリアは頷く。
「灰色理論を完成させた人物」
エイドが言う。
「詳細は不明」
「だが存在は確認されている」
フレイが腕を組む。
「そいつが黒幕か」
アルシェリアは少しだけ首を振る。
「黒幕というより……」
言葉を探す。
「中心」
クレージュが聞く。
「どういう意味だ」
アルシェリアは答える。
「灰色教団は、あの人の思想で動いてる」
「全員が従ってる」
アーニャが言う。
「怖いやつにゃ」
「ええ」
アルシェリアは小さく頷いた。
「でも」
少しだけ目を伏せる。
「狂ってるわけじゃない」
フレイが眉を上げる。
「どういうことだ」
アルシェリアは静かに言う。
「理屈は通ってる」
その言葉に、空気が変わる。
クレージュが言う。
「理屈?」
アルシェリアは続ける。
「この世界は不完全」
「六属性だけじゃ、安定しない」
「だから」
一瞬、言葉を止める。
「原初を取り戻す必要がある」
エイドが低く言う。
「そのために灰色を使う」
「そう」
アルシェリアは頷く。
「間違った方法で」
フランソワーズが言う。
「正しくない」
「当然だ」
アルシェリアは即答した。
「でも」
「考え方そのものは、間違ってない」
クレージュは少しだけ黙った。
完全な悪ではない。
だからこそ、厄介だ。
フレイが言う。
「で?」
「そいつは何をするつもりだ」
アルシェリアはクレージュを見る。
その視線は、はっきりしていた。
「あなたを使う」
クレージュの目が細くなる。
「やっぱりか」
アルシェリアは続ける。
「あなたと」
「私を」
一瞬、言葉が止まる。
「合わせる」
静寂。
エイドが言う。
「原初の再現か」
アルシェリアは頷く。
「それが目的」
フランソワーズが一歩前に出る。
「ならば阻止するだけだ」
迷いはない。
クレージュも頷く。
「そうだな」
フレイが笑う。
「分かりやすくていい」
アーニャが言う。
「全部壊すにゃ」
エイドは静かに結論を出す。
「次は本拠だ」
クレージュは研究所の奥を見た。
もう動くものはない。
だが。
ここで終わりではない。
むしろ。
ここからが本番。
アルシェリアが小さく言う。
「……来る」
クレージュが振り向く。
「何が」
アルシェリアは答えた。
「本気の灰色」
風が吹く。
崩れた研究所の中で、
静かに次の戦いの気配が立ち上がる。
お読みいただきありがとうございます。
昨日は体調崩し投稿できませんでした。
本日はこのあと5-20を上げますのでそちらも是非お楽しみください。




