5-18「原初の共鳴」
崩れた灰色兵器の残骸が、床に転がっている。
研究所の奥。
空気はまだ重く、歪んでいた。
だが。
さきほどまでとは違う。
「……薄れてる」
アルシェリアが小さく呟いた。
クレージュも感じていた。
灰色の気配。
あの不快な歪みが、少しだけ弱まっている。
エイドが言う。
「お前たちの影響だ」
フレイが周囲を見回す。
「全部壊したわけじゃないのに、か?」
「そうだ」
エイドは続ける。
「灰色は不安定な構造」
「原初に触れるだけで、崩れ始める」
フランソワーズが静かに言う。
「つまり」
「この場にいるだけで、抑制になっている」
アルシェリアが頷く。
「でも」
「完全じゃない」
クレージュが聞く。
「何が足りない」
アルシェリアは少し考える。
それから言う。
「繋がり」
その言葉に、クレージュが眉をひそめる。
「繋がり?」
「今はまだ“近い”だけ」
アルシェリアは説明する。
「でも本来は」
「一つの流れになる」
エイドが補足する。
「原初は分離しない」
「本来は一つだ」
フレイが腕を組む。
「難しい話だな」
その時だった。
研究所の奥から、再び振動が走った。
ドン……!
床が揺れる。
フランソワーズが即座に構える。
「まだいる!」
アーニャが耳を立てる。
「違うにゃ……これ」
「さっきのよりヤバい」
エイドが低く言う。
「中枢だ」
アルシェリアの表情が変わる。
「……核」
「この研究所の中心」
クレージュが前を見る。
奥へ続く巨大な扉。
そこから、灰色の魔力が溢れている。
フレイが笑う。
「当たりだな」
フランソワーズが言う。
「ここを壊せば終わる」
アルシェリアは小さく呟いた。
「……終わらせる」
クレージュが頷く。
「行こう」
扉を押し開ける。
重い音。
その先に広がっていたのは――
巨大な空間だった。
天井は高く、
中央に巨大な魔法陣。
そしてその中心。
灰色の柱のようなものが、脈動している。
六属性の光が混ざり合い、
不安定に揺れている。
「……これが」
クレージュが呟く。
エイドが答える。
「灰色術式の中枢」
アルシェリアが言う。
「完全に近い」
フレイが顔をしかめる。
「近いってレベルじゃねえな」
その瞬間。
柱から魔力が放たれた。
ブワッ……!
空気が歪む。
クレージュの身体に重圧がかかる。
「くっ……!」
フランソワーズも踏ん張る。
「強い……!」
アーニャが叫ぶ。
「動きづらいにゃ!」
エイドが言う。
「灰色の集中点だ」
「通常の魔力では干渉できない」
アルシェリアが前に出る。
「……やるしかない」
クレージュが隣に立つ。
「どうする」
アルシェリアは答える。
「繋げる」
短い言葉。
だが意味は分かる。
クレージュは頷く。
二人が並ぶ。
距離が、さらに縮まる。
「来る」
アルシェリアが言う。
クレージュは目を閉じた。
魔力を感じる。
六属性。
その奥。
微かにある、もう一つ。
それを――
押さえつけない。
ただ、流す。
アルシェリアも同じだった。
欠片。
原初の一部。
それを開く。
次の瞬間。
空気が変わった。
静かに。
だが確実に。
灰色の流れが、揺らぐ。
エイドが目を見開く。
「……来たか」
フレイが呟く。
「なんだこれ……」
見えない何かが、空間を満たす。
光でも、闇でもない。
だが確かに“存在する”。
アルシェリアが小さく言う。
「繋がってる……」
クレージュの中で、何かが一致する。
六つではない。
一つ。
それが、流れる。
「……これが」
言葉にできない。
だが分かる。
これが。
原初。
次の瞬間。
灰色の柱が大きく揺れた。
ギィィィィン……!!
音が響く。
魔力が崩れる。
フランソワーズが叫ぶ。
「今だ!」
クレージュが踏み込む。
アルシェリアも同時に動く。
共鳴。
二つが一つの流れになる。
剣を振るう。
ドンッ!!!
衝撃。
灰色の柱に亀裂が入る。
さらに一撃。
フレイとフランソワーズが重ねる。
アーニャが飛び込む。
エイドが空間を固定する。
そして――
バキィィン!!
柱が崩壊した。
灰色の魔力が、一気に消える。
静寂。
空気が元に戻る。
クレージュはその場に立ったまま、息を吐いた。
アルシェリアも同じだった。
少しだけふらつく。
だが、倒れない。
フレイが言う。
「……今のが」
エイドが答える。
「片鱗だ」
「七属性の」
クレージュは剣を下ろした。
まだ完全じゃない。
だが確かに。
触れた。
アルシェリアが小さく言う。
「……これが」
「原初」
その声には、恐れと、わずかな希望が混じっていた。
灰色研究所の中枢は、完全に沈黙していた。




