第九層
その後、幾度となく魔物と交戦した。けれどそのどれもがアルザの退魔と俺の魔法で瞬殺に成功。事なきを得る。
「アルザ、魔力はどうだ?」
「まだまだ余裕はある」
「退魔の能力って結構魔力を消費するよな?」
「みんなが思っているよりは全然平気だよ。それにほら、魔力供給できるポーションとか持っているし、なんとかなるよ」
「もし何かあったらすぐに言ってくれよ。無理せずとかじゃなくて、純粋に俺やミリア達の命にも関わるからな」
「うん、わかった」
素直に頷くアルザ。それを見て俺は大丈夫だろうと思い、視線を前に向ける。
レーテの案内によって、俺達は順調に進んでいる。やがて辿り着いた小部屋に入り、中を調べて隠し通路を開ける。それは上層と同じく複数の場所に魔力を当てる方法。最下層まで同様の方法みたいだ。
「よし、下へ進もう」
「ここからは完全に未知の領域よね」
ミリアが声を漏らす。第八層ではどこからか戦闘音とかが聞こえていたのだが、ここから先はそれすらなくなる。
「……あの派手な音を聞きつけて魔物がそちらへ向かっていたという可能性はある」
俺は通路へ入る前に仲間やレーテへ語る。
「けれど第九層は俺達しかいないわけで……こちらに魔物が集中するかもしれない」
「その場合はどうするの?」
「役割は今まで通り。アルザが前衛で俺が援護に回る。ミリア、現時点で魔族視点から何か感じ入ったことはないか?」
「今のところは何も。私はレーテを守りつつ、場合によってはディアス達の援護……で、いいのよね?」
「ああ、それでいい。第九層へ飛び込み、状況を確認しつつ隠し通路があると思しき場所へと向かう。レーテ、確認だけど第九層も第八層と同様の見た目だな?」
「うん、迷路になってる」
「なら、魔物と戦いつつ隠し通路へ向かう……アルザ、罠の警戒なんかは俺がするから、そちらは存分にやってくれ」
「ここが正念場だね。頑張るよ」
それから俺達は隠し通路へ。今までと代わり映えのしない下り階段を進むと……隠し通路の出口を開ける。
そこは、先ほどまでいた小部屋と似たような構造の部屋。魔物はおらず、俺は通路へ出る扉を調べながら、外側の気配を探る。
「周辺に魔物はいないみたいだな……レーテ、現時点で隠し通路の方向は?」
「うーん……なんとなく、こっちかな」
右方向を指さすレーテ。それを見て俺は、
「ひとまず通路でそちらへ向かう。ミリア、レーテの護衛をしながら状況に応じて道の指示を頼む」
「わかったわ」
「それじゃあ……行くぞ!」
俺とアルザは通路へ飛び出す。第八層と似たり寄ったりの構造ではあったのだが、満ちる魔力の濃さはこちらの方が上だった。それは魔物が多いとかではなく、純粋に最下層に近いために魔力の濃度が上らしい。
俺は罠を警戒しつつ進み始める。アルザは魔物が出てこない間は俺と並走する形となり、数歩後方にミリアとレーテが続く。
やがて、俺達は魔物と遭遇する――二メートル以上はある巨体を持った一つ目の怪物だったのだが、俺が何かを言う前にアルザが前に出て仕掛けた。
魔物は即座に反応。武器は拳らしく、咆哮を上げながら彼女へ向け振り下ろした。動作は巨体に似合わず俊敏で、もしアルザでなければ――食らっていたかもしれない。
魔物の拳をアルザは余裕で見切って避けた。次いで放たれた退魔の剣戟は、振り下ろした拳を見事両断する。
悲鳴を上げる魔物に対し、アルザは跳躍し、その首をはねた。退魔の力さえあれば、第九層の魔物も余裕で倒せる……そう確信した俺は、
「このまま進むぞ!」
先へ行くように指示を出す。途端、周囲から魔物の気配を感じ取ったが、俺達は構わず走る。
罠の類いは……どうやらないようで、これは魔族が滅んだ要因と関係していると俺は推察した。異界化が進み魔物も強いため非常に厄介なダンジョンではあるが、例えば階層の守護者が魔物に命じて罠などを設置するということはしない。おそらく侵入者を倒すための罠については、このダンジョンを作成した魔族が自ら仕掛けようとしていたのだろう。
そのため、俺達は無人の野を進むように通路を走る――やがてレーテが隠し通路に近いと告げる。
その道中に再び魔物と遭遇したが、今度は俺が雷撃を魔法を行使することによって撃破する。うん、俺の魔法も通用する……大丈夫そうだ。
「――あの扉だ!」
ふいにレーテが叫んだ。先にあるのは小部屋の入口。想定よりもずっと早く目的地へ到達して……俺達は、そこへと入った。
中はぽっかりとした小部屋。とはいえ、これまでと同じなら通路が隠されているはず。
「同じ方法で開くことができればいいんだけど……アルザ、部屋の外を警戒してくれ」
「わかった」
アルザが扉に張り付き、俺は部屋の中を調べる。目を凝らして、部屋を見回し……やがて、一つ回答を得て作業を開始した。




