魔族の目的
数分ほどの時間を要し、俺は魔力を流して隠し通路を開けることに成功した。その瞬間、最下層へと繋がる通路から濃い魔力を感じ取る。
「……今までとは違うみたいだな」
俺の言葉によって、仲間達にも緊張が走り……ゆっくりと進んでいく。現在第八層でニックが大暴れしているところだろうけど、さすがに俺達のいる場所まで来ることはないし、ここは慎重にいこう。
程なくして降り立った通路の出口。それを開けると、またしても部屋……だったのだが、今までと様子が違っていた。
「……研究室だな」
レーテの助言によって見つかった研究室と似たような場所だった。俺は適当な資料を拾い上げてみる。内容は、このダンジョンを作成することについての詳細だ。
「おお、すごい。デザインとかもやっている。多芸だな、ここにいた魔族は」
「凝り性だったのかしら」
別のテーブルの上にある資料を見てミリアが呟いた。そちらへ足を移すと、どうやらこちらは魔物の詳細に関する資料らしい。
「ダンジョンを作成する際、魔物についてもある程度は自由にできるけれど……ここまでこだわってやる魔族は普通いないわよ」
「……そういえば、魔物の種類とかはどうやって決めるんだ?」
「ダンジョンの特性に合わせて能力を割り振って……姿については考えるのが面倒であれば、作成を手伝ってくれる魔族とかがいたけれど」
「もしかして、ダンジョン作成を請け負いますみたいな業者がいたとか?」
「さすがにそういうのはいなかったけれど……まあその、ダンジョン作成について面倒見るから金をくれ、みたいなケースはあったようね」
「……人間もそうだけど、金の匂いがある場所には魔族も首を突っ込むんだな」
ただ、それを考えてもこの場所は例外的なのだろう……下手すると各階層の構造……その装飾にまでこだわるつもりだったのかもしれない。
ダンジョンは魔法による構築なので、建設工事とかの労力を考えればまだやりやすい。けれど、これはさすがにやり過ぎだと思うが……と、俺は部屋の隅に棚をみつけた。他の場所は資料が山と積まれ、棚についても色々な物が押し込められているのだが、隅にある棚だけは不自然なほど空いている。
俺はなんとなく気になってそちらに足を向けた。そしていくらか資料を確認すると、
「……これは」
「ディアス、それは?」
ミリアが問い掛けてくるのだが、俺は資料の文面を追うことに終始して沈黙する。
その様子にただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、ミリアやアルザ、さらにレーテもまた俺を見守る形で立ち尽くす。
やがて、
「……ここの魔族は、かなり重要な役目を帯びていたみたいだな」
そう呟きながら俺はミリアへ資料を示す。
「見てくれ、これは魔王の側近か誰か……手紙のやりとりをしていたようだ」
ミリアは俺の言葉を受けつつ資料を受け取り、中身を読む。すると、
「……このダンジョンの目的は、冒険者の調査?」
「聖王国へ侵攻する、というのが理由ではなかったらしい。たぶんダンジョンを大規模化して、入り込んでくる冒険者とか騎士とか……そういった人間の能力を調査しようとしていた」
「なるほど、ダンジョンが大きく、なおかつ魔物も多種多様かつ、各階層事に特徴がある……とくれば、冒険者の特性をあぶり出せるわね」
「さすがに建造物のデザインとか魔物の姿形までこだわるのはやり過ぎかもしれないが……魔力変質の魔法に加えて冒険者の調査。ここの主であった魔族は、聖王国内の人間に関して調べようとしていたようだ」
「魔族が外に出たのも、調査のためかしら?」
「そうだろうな。偶然討伐されてしまったという形なんだと思うが……もしこのダンジョンが正規の形で稼働していたとしたら、相当やばかったかもしれない。ここで様々な情報を抜かれていたら、魔王との決戦だって何かしら対策を立てられていたかも――」
と、述べたところで俺の頭に疑問が一つ。
「このダンジョンは十年以上も前からあった……とすると、魔王は決戦に入るよりずっと前から、侵略を考えていたのか?」
「どうかしら……あなた達が倒した魔王はそれこそ百年単位で存命していた魔王だから、聖王国侵略の一端だったのかもしれないわ」
「数あるうちの一つ、というわけか……その中でここの魔族は功績を上げようと、相当気合いを入れてダンジョンを作成しようとした」
「かもしれないわね」
「でも結果としてはこれ……か。もし魔族が生きていたら、納得していないだろうな、今のダンジョンを」
そう告げつつ俺は扉へ目を向ける。
「もう少し調べてみたいところだけど……十年以上も前の話なんだ。魔王だって倒したし、歴史的な価値はあるけど今の俺達にとってはあまり意味のないものだろう……というわけで、部屋を出よう。いよいよ最下層だが、ここにも守護する魔物はいるだろう。それが俺達にとってこのダンジョン最強の相手だ。気合いを入れてくれよ――」




