レット5 脱出の手引き
「レット、レット……」
足元から声が聞こえて驚いたレットは、おそるおそる床を見た。
「……イルナ?」
「よかった。まだ生きてた……」
どうやら床下にイルナがいるらしい。
「そりゃあ、生きてるさ。でもまあ、俺の命は風前の灯火らしいけどな」
レットは他人事のように言うと、苦笑を漏らした。
「だと思った。だから予定変更、今すぐ逃げることにしたの。ねえレット、ティルシャのいる方に歩いてきて。そこで、思い切り飛び跳ねるの。力いっぱい、体重をかけて」
「へ?」
ティルシャって? と問い返そうとした時、倉の中に白豆栗鼠が入り込んでいるのが見えた。
なるほど、こいつがティルシャか、と納得したレットは、あちこちが痛む体をなだめながらなんとか立ち上がった。
「思い切り、力いっぱいって……」
両腕を拘束され、顔面を殴られ、肩を強打した体で思い切り跳べとは、なかなか大変なことを言う。
とはいえ、どうやら生き延びるためにはこれしか方法がなさそうなので、精一杯やってみることにする。
ティルシャは、倉の左奥に、後ろ肢で立っていた。チチッと鳴くその姿は、まるでここだよと教えてくれているようだ。
近づくと、足の下が柔らかく沈む場所があった。
「そこ! そのあたり。がんばって!」
「え、ああ……」
姿の見えないイルナに応援されながら、レットは軽く膝を曲げて腰を落とすと、その場で可能な限り高く跳んだ。踏み切りの際に床がたわんだのがわかる。
着地すると、ミシッと軋む音がした。
「あ、これはもしかするかもしれないな……」
「だからそう言ってるじゃない。早く! 早くしないと、ギュアンが戻って来ちゃう」
「ギュアンって、さっきのあのでかいヤツ?」
「そう。ちょっと空き倉庫を爆破しただけだから、あとは下の人に任せて、戻って来るかもしれないの」
「ちょっと爆破って……イルナが?」
「そうだよ。だって、ギュアンの様子がおかしいんだもの。このままじゃレットが殺されちゃうと思って、必死だったんだから。感謝してよね」
驚いて訊き返すと、あっさりと肯定する返事が戻ってきた。レットは数度瞬きをしてから、ふっと小さく笑う。
「……わかったよ。イルナがそこまでがんばってくれたんなら、俺もがんばろう。ちょっと離れてて。すぐ蹴破る。ティルシャも離れて」
床下で人が移動する気配がする。ティルシャもレットの言葉がわかったのか、するすると隙間から倉の外に出て行った。
レットは首や足の関節をくるくると回したあと、ひとつ深呼吸した。
気合いを入れて、一気に床を蹴りつける。
足が、勢いよく床を踏み抜いた。




