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レット4 暴行

 倉の扉にかけられている鍵のはずされる音に、レットは閉じていた瞼を開けた。

 縄で縛られている箇所が痛む。


 無罪放免という報せなら嬉しいんだけどなと考えて、レットはその能天気さを自嘲する。

 先ほどのイルナの様子からも、その可能性は著しく低いだろう。


 イルナが去ったあと、男衆の声と足音が倉の周囲から聞こえていたが、中にレットがいることを確認すると、彼らは安堵の表情を浮かべてすぐに去って行った。

 それぞれの持ち場に帰って行ったのだろう。


 あれから、まださほど時間は経っていないはずだ。


 ギィ、という重い音に続き、大量の光が倉の中に射し込む。

 レットは眩しさに目を細めた。


 四角く切り取られた明るい空間を塞ぐように、光を背にして大柄な男が立っていた。

 すぐに、先ほどレットを捕らえるように命じた男だと気づく。


「随分と舐めた真似をしてくれたようだな」


 びりびりと空気を震わす低い声で、男が唸るように言う。

 その声に含まれた怒りを感じ取り、レットは僅かに眉を顰めた。

 いったいなにがあったのかはわからないが、相手が非常に腹を立てていることと、自分の身がいよいよ危険にさらされているのだということはわかった。

 もたれていた壁から体を離し、無言のまま男を見上げる。


「どうした。ついさっきまで冤罪だ、無罪だと騒いでいたじゃないか。なにか言いたいことはないのか?」


 言いたいことは沢山ある。でも

 残念ながらイルナからなにも言うなと指示されてしまっている。


 レットは両腕を縛られたままの状態で肩をすくめてみせた。


 すると、男がまるで鬼のような形相でカッと目を見開いた。倉を揺らすほど激しい足音を立ててレットの前までやって来たかと思うと、ぐい、とレットの襟元を掴みその腕を持ち上げる。

 レットの体が宙吊りになる。


「ぐっ……」


 レットは思わず声を漏らした。

 襟元を掴む男の拳が顎の下に食い込む。両腕を縛られた状態では抵抗することができない。

 嫌な予感がする。これはただでは済まないかもしれない。そんなことを考えた次の瞬間――。


「舐めるなよ、あぁ?」


 男の声がしたかと思うと、ガツン、と左頬に激しい衝撃を受た。と同時に、目の前で火花が散る。

 レットの体は宙を飛び、右肩から思い切り壁に激突する。


(ぃでっ!! いってぇ……めちゃくちゃ痛ぇ……)


 ずるずると壁を伝って床に崩れ落ちながら、レットは心の中で叫ぶ。

 喧嘩をしたことがないとは言わない。だが、この男の一撃はこれまでに喰らったことがないほど強烈だった。

 レットは泣きたい気持ちになりながらも、くらくらとする頭を振って、男を見据える。


(俺、いつまで黙ってればいいんだろうなぁ。このままじゃ、しゃべりたくてもしゃべれなくなるのも時間の問題っぽいんだけど……)


 白豆栗鼠をその細い肩に乗せた、淡い赤紫の瞳をもつ少女の顔を思い浮かべる。レットを助けてくれると彼女は言った。


 仕方ない、もう少しがんばろう。


 薄ら笑いを浮かべて歩いてくる男を見上げ、更なる痛みを覚悟する。

 でも、できれば大怪我はしたくないな、などと往生際の悪いことを考えていた矢先、倉の外で大きな爆破音が響いた。


「なんだっ!?」


 男が背後を振り返る。レットも開け放たれた扉の外へ目をやると、ちょうどそこから見える林のほうで煙がもくもくと上がっている。   


 チッ、と舌打ちをした男が忌々しげにレットを見下ろし、唾を吐く。

 べちゃっ、とその唾が頬にかかった。


「寿命が少しばかり延びたな。だが、少しだけだ。村の女に手を出したこと、せいぜい悔やむがいい。楽には死ねんぞ」


 不気味な光を瞳に宿した男が、くくっとくぐもった笑いを残し、倉を出てゆく。 


「楽には死ねん……かぁ」


 倉の鍵がしっかりとかけられる音を聞きながら、レットは擦れた声で繰り返した。

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