イルナ3 脅迫
ギュアンの頭には、レットは罪人だという考えが前提にあって、それ以外の話には聞く耳を持てなくなってしまっている。
けれどここで誤解を解いておかないと、レットがひどい目にあわされてしまう。
「お願い、ギュアン。話を聞いて」
踵を返そうとするギュアンの腕を咄嗟に掴み、引き止める。
「大人しく戻るんだ、イルナ。そうしないと、ティルシャを檻に入れるぞ」
ギュアンの口から発された言葉に、イルナはびくりと肩を震わせ、固まった。
ニール村に生まれた女の子は、七歳になると世界中でこのランフェル山でしか生まれないという白豆栗鼠を一匹与えられる。
以来、寝食を共にしながら育つのだ。
イルナとティルシャは、もう八年も一緒にいる。ティルシャは、イルナにとってかけがえのない、自分の体の一部にも等しい存在だ。
そのティルシャを檻に入れるということは、イルナから引き離すということ。それはイルナにとってなによりも辛い処罰だ。
「ギュアン、あなた……」
「イルナ、わかっているだろう? 俺はおまえのことを大事に思っているんだ。おまえがあとひとつ真実を視たとき、おまえは俺のものになる。そうなれば、俺が一生おまえの傍にいておまえを支え守ってやろう。だが、もしそれまでにおまえの身に何かがあったらと思うと、俺は恐怖で眠れなくなるんだ。だからイルナ、いい子だから大人しくしていろ。そうすれば、全てが上手くいく」
「ギュアン……」
イルナは言葉を失い、一歩、後退った。これまでにも、過保護だと思うことは何度もあった。けれど真実を視ることのできる女はこの国の宝とでもいうべき存在で、その女を護るためにいる男衆が過敏になることは特に珍しいことではないので、さして気にはしなかった。
けれど今、ギュアンのこの瞳に浮かんでいる光は、明らかに尋常ではなかった。
歪な笑みを浮かべ、ギュアンがイルナに背を向ける。
ぞくり、と震えが起こり、イルナは自分の体をぎゅっと抱きしめた。
ギュアンの姿が見えなくなるまで、イルナはただその場に立ち尽くすことしかできなかった。そしてふいに、はっと気づく。
このままでは、レットが危ない。
「ティルシャ、急ごう」
イルナはギュアンが消えた方角とは別の方へと駆け出した。




