レット6 間の悪さ
体の均衡を欠いたレットは、そのまま床に体をぶつけ、その衝撃で更に穴が広がる。
レットの体が穴にはまり、両足が地面に届いた。
「だ、大丈夫!?」
「い、一応……。でも両手が使えないから、身動きがとれない……」
床はレットの腰くらいの高さにある。上半身はまだ倉の中だ。
「そのまままっすぐ屈めば大丈夫だよ」
イルナに言われたとおり、腰を落とそうとしたら、後ろで縛られた両腕が穴に引っかかった。
「いっ、いてってっ……」
穴を通り抜けようとすると、折れた木材の先が腕に刺さるのだ。
「がんばって! もうちょっと!」
「あ、ああ……」
あまり泣き言を言うのも男としてどうかと思ったので、そこからは心の中で痛い痛いと繰り返しながらも、なんとか両腕が穴をくぐり抜けた。
腕が抜ければ、あとはすぐだ。
床下で、ようやくイルナと対面することができた。
「ありがとう」
「どういたしまして。怪我、大丈夫?」
左頬が腫れているのは、自分でもわかっている。けれど歯が折れたり鼻が曲がったりしてはいないようなのは幸いだった。
「ああ、うん、平気だよ。それより縄を切ってもらってもいいかな?」
そう言ってイルナに背中を向ける。
「うわ、痛そう……」
イルナの声が後ろから聞こえた。
「うん、実は痛い」
レットは素直に白状した。
「ちょっと待って」
イルナが刃物で縄を切ろうとしてくれているのが伝わってくる。やがて、ブチッという音がして手首が自由になった。
「助かったよ」
固まってしまった筋肉をほぐすように、腕をゆっくりと動かしながらイルナに礼を言う。
腕には尖った木の先で削られた傷がいくつもついて見るも無残な状態だけれど、命に支障があるわけじゃない。
ひとまず両手が使えるようになっただけでもよしとすべきだろう。
「ホ、ホークさまの弟じゃ、助けないわけにはいかないもの」
つん、とそっぽを向いて言うイルナの横顔がなんだか可愛くて、レットは本人に気づかれないように小さく笑う。
「俺、ホークの弟でよかったよ。ありがとう」
レットが礼を言うと、イルナがぱっと顔をレットの方に向けた。かと思うと、すぐ俯いてしまう。
「……ううん。もともと、レットは何も悪くなかったんだもの。ごめんなさい」
さっきまでとはうって変わって小さな謝るイルナの肩には、ティルシャがちょこんと乗って、そのつぶらな瞳でレットを見ている。
「いや。俺、昔から間が悪いんだよな。いつもこんなことばっかりだから、気にしなくていいさ」
これはイルナのためについた嘘というわけではなく、事実だ。それを聞いたイルナが薄布の下でくすりと笑うのがわかった。
「なんだかわかるような気がする……」
会ってまだほんの少ししか経っていないイルナに言われて、レットは複雑な気持ちになるのだった。




