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フェイレ3 月夜

「大丈夫ですか?」


 月の美しい夜だった。

 こっそり隠れ家を抜け出したフェイレは、隠れ家となっている空き家の屋根の上に寝転がり、月を眺めていた。


「ミア? あなたこそひとりで出てきて大丈夫なのか?」

「ここにはもう慣れましたから、平気です」


 平気とは言うけれど、さすがに梯子を上ってくるのは危険だろう。

 フェイレは腰を上げると、するすると梯子を下りた。


「なにか用でも?」

「ええ。貴方のことが心配で、つい、出てきてしまいました」

「心配? 俺のことが?」

「ええ。おかしいですか?」

「おかしくはないが……。心配されるほど、俺の様子は変だったか?」


 仲間を率いる立場にふさわしい立ち居振舞いをするよう、心がけていたつもりだった。

 仲間に心配させているようでは、統率者失格だ。   


「ちっとも変ではなかったからこそ、心配になったのではないですか」


 くすりとミアが笑う。

 フェイレはミアの手をそっと取ると、空き家の庭に放置されている長椅子にミアを案内した。


 月光を浴びて立つミアは、まるで光にとけてしまいそうなほど儚く、美しく見えて、フェイレは息を呑む。


「変じゃなければ、いいじゃないか」

「変でないということは、色々な物を心の内に押し込めているということでしょう。違いますか?」

「それは……」


 仲間の前で弱気なところを見せてはいけない。迷うところを見せてはいけない。

 ずっとそう思ってきたし、できる限りそうしてきた。


 けれど。


 今ここで、少しだけ、ほんの少しだけミアに本心を明かすことは許してもらえるだろうか。


「どうぞ話して下さい。明日の朝になれば、貴方たちはわたしを残して出発してしまうのでしょう? わたしはさすがに王宮までは一緒に行けませんから、今ここで何を聞いても明日の作戦に影響は出ないはずです」


 ミアに促され、フェイレは少しだけ、ミアに頼ってしまうことにした。


「あなたには世話になりっぱなしだな」


 フェイレが苦笑しながらこぼすと、ミアはゆっくりと首を横に振った。


「そんなことはありません。全ては貴方が村へ来てくれたあの時から始まったのです」

「俺もそうだ。あの時から、自分にできることはなんなのかを考え始めたんだ」


 フェイレはそっとミアの手を取り、近くの階段へ導いた。

 外套を脱いで、階段の上に敷き、そこにミアを座らせる。


「そして三年前のあの日、貴方の道は決まったのですね」

「助けてくれたこと、感謝している」

「わたしはわたしの目的のために貴方を利用しているだけなのです」


「それでも、あなたがいなければ、俺は三年前、風海に沈んで死んでいた。だから俺は、一度は手放しかけたこの命が役に立つのなら、最大限に利用しようと決めた。そのために、多くの犠牲を出すかもしれない。それは俺が何もしなければ、生じることのなかった犠牲だ。それでも、俺はそれらの責任を一生背負って、目的を果たすために行動するしかないんだ」


「ええ。そうですね。なにもしなければ貴方はなにも背負わなくてもいいかもしれない。けれどなにもしなければなにも変わらない。そして、貴方の存在は外の誰かが肩代わりできるものではないのですから」

「ああ。わかっている。俺がやるのが一番効果的だ。だから、俺がやるしかない」


 ほかの誰かがやってくれるだろう、と逃げることはできなかった。

 自分の中に流れる血が、それを許さなかった。


 俺は起つ。


 けれど……時々、昔を懐かしく思い出すことがある。

 明るく優しい両親と、六歳年下の弟と一緒に過ごした穏やかな日々。

 最後に弟と会えたのは運命のいたずらだろうか。それとも聖女の恩恵か。


「レットは立派に成長していましたね」


 フェイレの考えていることがわかったのか、ミアが懐かしむように言う。

 七年前のレットの姿を思い出しているのかもしれなかった。

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