フェイレ4 価値
「ああ。迷うのはいいことだ。その末に出した結論は、大事なものになるだろう」
「貴方から選択肢を奪ったのは、わたしですね」
ミアは真視の聖女の解放を望んでいた。
そのため、能力を使い果たしたあとは村を出て、アーキュナスを頼りザックへ来た。
その時のフェイレはまだタルーナに住み、『ホーク』を名乗っていた。
トーリオの仕事についてザックへ来た時に知り合った若者たちのまとめ役・リナシェイクと意気投合し、アーキュナスの一員としてその活動に参加していた。
アーキュナスはもともとリナシェイクたちが作った集団だったのだ。
そこにミアを加えて、時に彼女の占いに助けられながら、アーキュナスは活動を続けた。
フェイレは既に自分の出自について知っていたけれど、王宮など自分とは遠い世界のことで、自分とは関係ないと思っていた。
自分にできることは、アーキュナスの一員として、手の届く範囲にいる身近な人々を助けることだと思っていたのだ。
それが変わったのは、三年前。
船は事故で沈んだのではない。
フェイレの出自を知った者に、殺されかけたのだ。首を締められたあと、気絶した状態で海に捨てられた。
そのままだったら死んでいたはずのフェイレを拾ってくれたのはミアだった。
首を強く締められた際に声帯を痛めたのか、眠りから目覚めた時、フェイレの声は掠れ、まるで別人のようになってしまっていた。
だが、その程度は些細なことだった。
そしてフェイレは決意した。
『ホーク』は船と共に沈んだ。
以後はフェイレとして生きるのだと。
そして地下へ身を隠した。
ミアは、王宮内の様々なことをフェイレに教えた。それは真視の乙女として知り得た情報であったり、占いによってわかったことでもあった。
両親にだけはこっそりと手紙を送った。
はっきり名乗ったわけではないけれど、両親は察してくれたのだろうと思う。
「死にかけて、自分の命の価値を知っただけだ」
「わたしが助けなければ、貴方はあのまま死ねたのに。生きる方が辛いこともあります」
「俺は後悔していない。この国は悪い方へ、悪い方へと進み、未来に期待することすらできなくなっている。俺は自分の求める世界を手に入れたい。そのために行動を共にしてくれる仲間がいることを幸せに思う。そして……あなたの傍にいられたことも」
「フェイレ……」
ミアがフェイレへと顔を向ける。
その目は何も映さない。けれどその瞳の美しさに、フェイレはいつも魅了される。
「今の俺があるのはあなたのおかげだ。あなたがいてくれてよかった」
フェイレも真っ直ぐにミアの瞳をみつめながら、告げた。
「わたしもです、フェイレ」
「必ず成功させて、あなたを迎えにくる。その時は、一緒に来てくれるだろうか。ずっと、俺の傍にいてくれないか」
「……わたしには、そんな価値はありません。ただの占い師です」
「俺にとってはかけがえのない存在なんだ、ミア」
「フェイレ……」
ミアの目から、透明な涙がすぅっとひと筋こぼれおちた。
月光にきらきらと輝くその雫をフェイレは見送り、頬に残る涙のあとをそっと指先でぬぐった。
けれど続いて零れ出した涙は、なかなか止まらなかった。
フェイレはその涙をぬぐってやるのを諦め、ミアを抱きしめた。
薄手のシャツにミアの涙が染み込む。
その涙すら愛しく、フェイレはミアを抱く腕に力を込めた。




