レット36 / フェイレ2 明日
「どういうことだよ、父さん!」
サメディの前を辞して与えられた部屋に戻るまではなんとか堪えた。しかしそれが限界だった。
部屋に入るなり、レットはトーリオの前に立ちはだかった。
「言っただろう? フェイレのためにできることをやる、と」
「それはっ……だけどっ、でも、だからってあんな風に、イルナを利用するようなやり方はっ!! そんなのは、卑怯だ!」
レットたちには時間が必要だった。追っ手から逃げ、考える時間が。
両親はレットたちの話をきちんと聞いてくれた。その上で助言もしてくれた。
だから、レットはトーリオを信じた。信じて、尊敬もしていた。
それなのに――。
「どうするかは彼女次第だよ。僕はただ選択肢を提示しただけだ」
「詭弁だよ! あの状態であんな風に言われたら、そしたらイルナは……」
「やめて、レット」
「でも……」
「トーリオさまのおっしゃる通りよ。今夜一晩、ゆっくり考えて決めるね」
「イルナ……」
「すまないね、イルナさん。だが――」
「謝らないで下さい。大丈夫です。わかっていますから」
イルナが抱えたティルシャの背をゆっくりとなでる。ティルシャが気持ちよさそうに目を細める。
「そうか」
「わたし、少し休みますね」
それだけ言うと、イルナは自分の部屋へ姿を消した。
レットはトーリオとふたり、その場に残される。
けれどトーリオと話したいことは、なにもなかった。
少なくとも今は、なにも話す気にはれなかった。
唇を引き結び、レットも自室へ向かった。
◆◆◆
「ヒュムから報せが届きました。実行犯を捕らえ、証言を引き出したと。やはり黒幕は宰相だそうです」
「王宮に潜入していた者から、宰相から大臣へ送られた手紙を入手したとの連絡が入りました。サインは入っていませんが、筆跡から宰相の物と間違いないと。内容は暗殺が成功した暁の段取りに関するものだそうです」
「出兵に伴い王宮の西門の警備が薄くなっている模様です」
既に、フェイレたちはザックから一日半の距離にあるエウラルト王国の首都エウニアに潜入していた。
予てからエウニアに用意してあった隠れ家に身を潜め、その時を待っていたのだ。
次々と届く報に耳を傾けながら、フェイレは瞑目した。
いよいよだった。証拠は揃った。
王宮の警備はは手薄。
「フェイレ」
リナシェイクが黙ったままのフェイレに呼びかける。
フェイレは、覚悟を胸に立ち上がった。
室内には二十人近い仲間がいる。
王宮に潜入している仲間が五人。エウニアに潜んでいる者たちが十数人。近隣に散っている仲間を呼び寄せて十人、合わせれば五十人近くになる。
「時は来た。これ以上の愚行を許すわけにはいかない。我々は、明朝王宮へ攻め込む!」
おお、と仲間の声が重なり、部屋の中に覚悟が満ちる。
室温が上昇する。
リナシェイクが、ぶるりとひとつ体を振るったのが見えた。
大舞台を前に、昂ぶっているのだろう。
明日、全てが決する。
フェイレは様々な思いを胸に、拳を高く突き上げた。




