レット22 フードの下
細い裏路地とはいえここはどん詰まりで、今も木箱が積んであるように、荷物を置くために利用されているのか、ちょっとした倉庫くらいの広さはある。もちろん、屋根はないが。
「誰がなんと言おうと、俺は俺の信念に従って行動する。悪いがおまえたちの都合に合わせるつもりはない」
ぞろりと自分に向けられた矢先に動じることなく、男が言い放つ。
「どうやら命が大切じゃないようだな」
ギュアンが忌々しそうに目を眇める。
「おい、さすがにこの人数相手じゃ……」
「とっとと行け。邪魔だ」
男が、レットの心配を一蹴する。
「レット、行くわよぉ。あなたがやることは、イルナを守ることでしょー」
キャノアがレットの腕を掴む。
「射掛けろっ!」
ギュアンが号令を掛ける。矢が一斉に放たれる。
キャノアがレットの腕を引いたまま、木箱の陰、抜け道側へと飛び降りる。引きずられるようにレットも木箱の裏側へ落ちる。
落ちるレットの視界に、射掛けられた矢を避け、跳躍する男の姿が見えた。
そしてフードの下の顔も。
男が、無様に木箱の下に落ちるレットへちらりと視線を向ける。目が合う。
男は小さく笑ったようだった。
その笑顔に、レットは確かに見覚えがあった。
けれど跳躍した男の姿はすぐに木箱の向こうへと消える。
そんな、馬鹿な……。
「ホー……ッ」
呼びかけようとするレットの上に、木箱が崩れ落ちてきた。
「馬鹿ぁっ!」
壁に開いた穴の中へ、危機一髪でキャノアに引きずり込まれる。
レットは自分の見た物が、まだ信じられず、ただ目の前に落ちてきた木箱を前に呆然としていた。
声が違う。
話し方だって違う。
それに、もし本物なら、自分に何も言わないはずがない。
だが、さっきの顔は、あれは……。
ホーク。
あれはホークだった。ホークがよく見せた笑顔だった。
「大丈夫? どこか痛いの?」
イルナの声に、はっと我に返る。
「……いや、大丈夫」
答えながら、レットは迷う。
今見たことを、イルナに話すべきか否か。
ホークだと思う。けれど確証はない。
もしあれがホークだとするなら、何故リナシェイクたちはレットになにも言わなかったのか。
リナシェイクたちも素顔を知らないのか、それとも、知っていて隠していたのか、あるいはそれ以外になにか理由があるのか。
「あいつひとりで残ったのか。まあ、あいつならこの辺の地理にも詳しいし、大丈夫だろう。行くぞ」
リナシェイクが手にした蝋燭の明かりを頼りに奥へと進み始める。蝋燭は予め用意してあったものだろう。
「急いでねぇ、レットぉ」
キャノアに急かされ、とりあえず結論は後回しにすることに決める。
「どうしたの?」
心配するイルナに「なんでもない」と答えると、レットは立ち上がってそっと彼女の手を取った。
石造りの通路は立って歩けるだけの高さはあるが、人を抱えて進めるほどの幅はなかった。
イルナには自力で歩いてもらわなければならない。
今は、イルナを安全な場所まで連れて行くことの方が大事だ。
「イルナこそ大丈夫? 歩ける?」
「もちろん。もう、すっかり元気だもの」
胸を張るイルナの声にはまだ力が戻りきっていないように聞こえたけれど、それでも、幾分元気になっているのは事実のようだ。
レットはうなずいて、イルナの手を引きながらゆっくりと歩き出す。イルナがそっとレットの手を握り返す。
その温もりに、レットはほっとするのだった。




