レット21 思わぬ再会
「こっちだ」
細い路地を通りとは反対へと進み、いくつもの分かれ道を曲がったその先、行き止まりの場所に積み上げられた木箱の上から、男がレットへと声をかけた。
そちらに近づいて木箱の向こうを覗くと、木箱と奥の壁の間に僅かな隙間があり、壁にぽかりと人ひとりがようやく通れるくらいの穴が開いていた。
「これは……」
「抜け道だ。リナ、先導してやってくれ」
「はいよ」
リナシェイクは軽く返事をすると、木箱の上からひょいと飛び降り、するりとその穴の中へと入ってゆく。
「信じてもいいんだな?」
「信じるか信じないかは、おまえの自由だ」
念押しも兼ねて確認したのに、あっさりと突き放される。仕方なくレットは男から求める言葉を引き出
すのを諦めた。
「おい、急げ」
穴からひょいと顔を出したリナシェイクに急かされ、レットは木箱の上に片膝をつくと、抱えていたイルナの体を支えながらゆっくりと下ろした。
つま先が届いたことを確認して、手を放す。
その時、背後でひゅん、と何かが風を切る音が聞こえた。
はっと振り返ると、自分目掛けて射られたと思われる矢が眼前に迫っていた。
「っっ!!」
避けられない。
咄嗟に利き手ではない左腕で矢を受けようとしたが、矢がレットに届く前に、傍らに立つ男がそれを剣で払いのけた。
ほっとしかけて、慌ててそんな場合じゃないと、矢を射った相手へと目を向け、レットは目を瞠った。
「ギュアンッ!?」
ニール村の男衆、ギュアンが、歪んだ笑みを浮かべてそこに立っていた。背後には幾人かの男衆を引き連れている。
「知り合いか」
「残念ながら」
ローブの男に訊ねられ、レットは不本意ながら答える。
「レットたちが逃げていた相手ってのは、あいつらなのぉ?」
木箱の下では、キャノアが吹き矢筒を構えながら問う。
しかし小型のその吹き矢と通常の矢とでは飛距離が全く異なり、圧倒的に不利だ。
「ああ。イルナを取り返しに来たんだ」
そして恐らく、イルナを連れ出したレットを始末するために。
「言ったはずだ。逃がしはせんと」
矢を番え、その先をレットへと定めたまま、ギュアンが告げる。
「厄介な時に厄介なことになったものねぇ」
「どちらにせよ厄介なのは変わらない。だったらまとめて片付けておけばあとが楽だ」
忌々しそうにギュアンたちを見据えるキャノアに、男がなんでもないことのように言う。
「これ以上迷惑はかけられない。俺のことは置いていってくれ。イルナのことを頼む」
「丸腰のくせに阿呆なことをぬかすな。それに、勝手に女を預けられたってこっちも困る」
「困る、って――」
そこはわかったとうなずいてくれるところじゃないのか、とレットは恨みがましく思う。本当に、この男には調子を狂わされてばかりだ。
「おまえが彼女を連れて行くのが筋だろう。キャノア、さっさとこいつを引っ張り込め」
「でもひとりじゃあ……」
「こっちは適当に切り上げて別経路で合流する。すぐに他の仲間もやってくるだろう。それとも、俺が信用できないか?」
「そういうわけじゃないけどぉ……」
「おいどうした!? 何があった?」
異変を察したリナシェイクの声が、躊躇うキャノアの声を遮る。
「いや。なんでもない」
リナシェイクの問いに即答して、男が目でキャノアを促す。
「絶対、無理はしないでねぇ」
「当然だ。こんなことで怪我なんぞしたら阿呆らしい」
男の返事に納得したのか、キャノアはひょいひょいと木箱を上ってくる。
「聞こえなかったか? 逃がさんと言っている」
ギュアンが苛立ったように一歩踏み出す。
その後ろから男衆がばらばらと出て来て左右に広がった。




