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引っ越しは面倒だ3

 最終的にディーノが予想していたしばらくの面倒はなかった。

 マザーは宿に泊まったその夜にまだ王都にいたロディルに頼んで、港の倉庫に預けていた荷物を自宅に運び入れた。

 翌日にはユグルフト商会からの荷が届き、マザーと三人の娘たちは自宅の掃除をしながら荷解きをし、生活のできる環境へと片付けなければならなくなったのだ。

 それと同時に背中合わせにある店の改築への指示もしなければならない。

 自宅については大雑把に指示を出して三人の娘、正しくはアンジェラに任せてマザーは店の方へと集中しなけれならなかった。

 近所にいる奥様方が母一人子三人の親子の姿に気の毒に思い食事を差し入れてくれたり、ディーノが様子を見に来たついでにオススメの食事処に連れて行ってくれたり、仕事で訪れたロディルが屋台か何かで食事を買って来てくれたりと優しい人に恵まれたとマザーは目を細めた。

 最終的に五日目にして家の掃除と片付けが終わり、ついでに注文していたベッドが運び込まれた。店の方はまだ改築している。

 一階のバーカウンターとキッチンは最初から喫茶店にあったものを多少直したのみだったのでそこから先にやって貰った。バーカウンターの反対側に個室を設置する予定だ。

 それと秘密の小部屋も。

 元々、倉庫に使っていたのか地下室があったので元々あった階段を潰して入り口付近に階段を作り直し、下をメインのテーブル席と半個室がある空間にするつもりだ。

 普通に改築するの無理じゃない?と思ったのだが大工の頭領が言うには樹木系のモンスターの素材と、壁も以前にディーノから聞いていたスケルトンとスライムの素材で出来た壁なら普通の木材や壁材よりもはるかに強度があり柔軟性もあるのだという。

 二ヶ月はかかるだろうと思っていた建て替えも、数週間で終わると言われた時にはモンスターの素材についてもっと勉強しようと真剣に考えた。


「と、言う訳で」


 マザーはお隣のお婆さんから頂いたケーキをデザートにと食べながら話し出す。

 流石に慣れない環境と忙しなく動いたせいか彼女たちの顔には疲労感が漂っている。


「この五日間、お疲れ様。あとしばらくお店の改築が終わらない限りは忙しくはならないと思うわ」


 自宅の方は広くはないが三階建ての可愛らしい家だった。

 一階はリビングとキッチンと風呂があり、二階は作業部屋と鈴玉用の研究室。三階は三人の娘の寝室と、マザーの書斎兼寝室がある。

 お店はそうでもなかったが自宅の方は古い家だったのか掃除をするのが大変だった。

 ピカピカに綺麗になった木目調の家具が目立つリビングでマザーは食事の並ぶテーブルに銀貨と銅貨を広げて三人の娘たちに決まった分を分けて差し出した。

 ぱあっと三人の娘たちの顔が喜色が浮かぶ。


「明日はこれで王都を好きに回りなさい。スヴィトナーラは鈴玉と一緒に行動してくれる?ついでに三人共、王都の地理を頭に叩き込んでおきなさいな」


 それと、と言いながららマザーは鈴玉の取り分に金貨の一枚追加する。


「鈴玉、見たことのない野菜とか向こうとこちらで名前に相違がないかとか軽く見ておいてくれるかしら。それと薬草、香草も買うのなら今上げたお小遣いでは足らないでしょう?無駄遣いは駄目よ?」


「はーい、マーマ」


 鈴玉は気のない返事をしながら黒の瞳をキラキラとさせて、嬉しそうに懐に硬貨を仕舞い入れる。


「それとアンジェラ!」


 財布にせっせと硬貨を仕舞っていた彼女はマザーの呼びかけにびくっと身体を震わせた。


「まあ・・・なんですの?マム」


「アンジェラの事だからきっとナイフの柄を直しに行くついでに鍛冶屋で新しいダーリンを、とか思ってんじゃないでしょうね?アンタ、向こうで最後だからって新しいナイフ買ったでしょ?洋服ケチって」


「うふふ、そんな事。ありません、事・・・駄目ですの?」


 言葉を続けながらあからさまにしょんぼりするアンジェラにマザーは溜め息を吐きながら、頭を振る。


「やっぱりね・・・こっちの家の片付けはアンジェラが頑張ってくれたのだから。もし鍛冶屋でナイフを注文するか買うのなら後から代金を払うからって請求書貰ってきなさい、私からのお礼よ。だ、か、ら、ちゃんと服は買いなさいね」


「ま、まあ・・・よろしいのですか?本当に?」


「もちろんよ、スヴィトラーナ。アンタも欲しい武器か装備か何かが欲しかっ」


「マーチ、全身鎧が」


「却下よ」


「しかし、全身鎧を着たまま鍛練すると」


「却下よ」


 そうか・・・とがっくりと肩を落とすスヴィトラーナにマザーは苦笑混じりにそっとメモを渡す。


「それ、ディーノ君がここら辺の剣や武技を教えてる場所って教えて貰ったから見て来てらっしゃい」


 がばっと顔を上げて瞳を輝かせる彼女と、むしろ、他の二人の娘たちも少し育て方を間違えたかしら?とマザーは軽く苦笑いを浮かべた。


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