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引っ越しは面倒だ2

 ベルナトッドのこんな姿を見るのは初めてだ。

 おおー、と心の中にその光景に声を上げながらディーノはちらりとニコニコと微笑むマザーの後頭部と机の上のお盆に散りばめるように落とされたキラキラと光り輝く純度の高い宝石たちを見た。

 横にいる白銀色の髪の少女は表情を変えずにマザーの後ろに備える。

 ディーノの知るベルナトッドはあの司祭のじじいの飄々とした笑みとは少しだけ違う表側だけの笑みを浮かべては、弾いた算盤に全てを賭ける凄腕の商人だった。

 強盗に馬車が襲われた時など護衛についていた兵士へと逆に壊した品物や備品の代金を請求し、隊長であるディーノにも請求書が届いた事もあった。

 お陰で中々に仲は悪い。

 そんな彼が、形無しか。

 ぐったりとテーブルに突っ伏しながらもマザーから受けとったメモはしっかりと握られている。


 最初はマザーのこんな言葉から始まった。


「スチュワート領でやっていたのと同じくまた酒場をやろうと思っているの。それと引っ越したばかりだから日用品関係ね」


 マザーは懐から取り出した紙をその商人へと提示する。

 綺麗な筆跡で規律よく文字と数字が並んだ紙と、数人の筆跡で乱雑にそれでいて線で消去されている文字もある紙。

 知らされた情報によるとマザーと三人の娘たち。

 下に書かれているのは娘たちの分だろうか。


「特に急ぎで欲しいのはこっちの方、日用品ね。こっちはお店の備品だから余裕を持ってもらっても大丈夫よ」


 乱雑に書かれた日用品のリストに目を落とし、ベルナトッドは頷いた後に綺麗に書かれたリストを見て眉を顰める。


「そう・・・ですね。日用品の方は大丈夫ですが、お店の備品。特に調味料や香辛料に関してはお値段がかなりかかりますが・・・それと香草についてはこちらで取引はしておりません。ハンターギルドに依頼をされると良いでしょう」


 なるほど香草は手に入り難い、と頭の中に入れながらマザーはベルナトッドへと困った表情で問いかけた。


「んーっと、全部で大体おいくらくらい?これだけの物を仕入れるのと、調味料とか香辛料に関しては定期買い付けもするから勉強して頂けると嬉しいのだけど・・・それとこれの買い取りもお願い出来るかしら?」


「香辛料は買い付け次第だったりしますからね・・・と、買い取りですか・・・?」


 マザーは指で摘んだそれは彼へと差し出す。

 商人は懐からハンカチを取り出し、その手の平へと広げた。

 ころり、と落とされたのはカッティング処理を終わらせた七色に輝く宝石。

 ぴゅーいと後ろにいたディーノが口笛を吹く。ジロリとベルナトッドが彼を睨むがそれが面白いのかハンと鼻で笑いディーノは彼の手の中の石を薄目で見る。


「うーん、中々の代物じゃん。賊のねぐらでもお目にかかったことはないな」


「・・・っ!」


 只の嫌がらせである。

 きっとマザーならば安く買い叩くのは難しいと思うが、そこまで預かった客人にさせたれるのはディーノの趣味ではない。胡散臭い客人だったとしてもだ。


「ただあれなの、宝石商に持ち込むのは面倒臭いじゃない?」


 首を傾げてそう言ったマザーにベルナトッドは恐怖を覚えた。

 そして、大体その予想は裏切らなかった。

 提示した金額と、相対する宝石と優しく甘い口撃。

 最終的には多少の利益はあれど純度の高い宝石と、商品がやり取りされ現金、言わばピカピカの金貨の出番はなかった。

 何故か後ろに控える白銀の髪の少女は得意げな顔で笑みを浮かべているしディーノは軽く先程の嫌がらせを後悔した。

 頭から煙りを出しそうなベルナトッドはそれでも日用品の運び入れまでをサービスとして了承し、マザーは嬉しそうに彼の頭をそっとポンっと優しく置いた。


 その後も中々に流石な展開となった。

 大工の頭領に美しい尊顔と金貨をこれでもかと利用し、最短期間で店のリフォームを任せ、酒屋ではそこのご夫人とにこやかに談笑しながら商談を纏め、ディーノを使って自宅と店の周囲のご婦人方と仲良くなった。

 見目の良さもあるが他人に好かれる素質が恐ろしい程にある人間なのだろう。

 帰りに教会へと戻り、金髪を持つ美貌と、黒髪の愛嬌のある娘を回収していたので、これが残りの娘たちかと思う。

 今日の所は宿屋に泊まると王都でも貴族しか泊まらないような宿へとついでに案内させられたディーノは最終的にアレクシスに再び教会へと呼び出された。

 もちろん彼ら亡命者の話をする為に。


「はー・・・疲れたー・・・」


 ぐったりと教会の椅子に寄りかかるディーノにアレクシスとバルメットは気の毒そうな顔をして、それでも軍でも優秀な遊撃隊の隊長の疲れ切った背中に面白いものを見たと笑みを零した。


「それで?どう思った?」


 アレクシスの問いにディーノは軽く困った顔をして答えた。


「うーん、どうだろうか。お子様方のお陰できっとしばらくは面倒を背負う羽目になりそうだが、周囲の付き合いについては心配は無いな、それは恐ろしい程に」


「ほう、ではしばらくはディーノとバルメット司祭にお任せしてもよろしいでしょうか?何分、私は出歩くのが難しいみたいなので」


 アレクシスの父親が宰相といえど、王子によからぬ嫌疑をかけられていては自由には動き回れない。

 城内でも情報収集に支障をきたすのが一番に良くないのだ、王子が城下へと出歩くのも良くはない。

 何故か自分と父を目の敵にしているので、しばらくは城内へと留まり、亡命者方に接触せずに大人しくしていると良いのだが。


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