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王都と教会8


 ぜいぜいと上下する肩に、額から流れ顎からポタポタと汗が落ちる。

 近いのにその距離は遠い。

 幸いな事に守備に入った敵はこちらに気付いてはおらず、自分の仲間が同じように周辺に隠れ潜んでいるのが微かに伺えた。

 彼らも自分と同じように肩で息をしながら、汗を拭っている。

 目が合い、お互いに頷く。

 敵は強固だ。ならば。

 仲間の一人が自分を指し、一人で行くと向こうを指す。そして、こちらを指し、捕虜になっている仲間を指した。

 彼の意図を察し、耳と尻尾をピンと立たせる。濃い灰色の長い毛並みが風にくすぐられ揺れた。

 たっ、と走り出した仲間の後ろを一拍置き、走り出す。


 そして。


「甘い」


 背の大きな白銀髪の彼女はそう呟き灰色の毛並みを持った獣人の子供の足を持ち上げる。ぎゃいぎゃいと騒ぐ彼を逆さに持ちながら彼女は木に触れている子供の元へと向かった。

 鈴玉もケラケラと笑いながら囮役として飛び出していた少年を捕まえ、手を繋がせてる。


「もう少し手を抜かなければ良くないと判断できるな、鈴玉」


「おーそうだねー、これじゃあ助け鬼が助けに来れない!!」


 木に手をつけている子供に、捕まえた子供を手で繋がせて既に七人目。

 繋いだ手と手を切り離す事で再び鬼から逃げる事が出来る。

 スヴィトラーナが持っていた足を離すと、悔しそうな表情で、それでも大人しく彼は手を繋いだ。


「ふむ、あと何人だったか」


「索敵レーダー的にはあと六人だよー」


 残りの子供たちはアンジェラが部屋の中で面倒を見ているのだろう。

 そう思い、さてとと周囲を見渡す。

 どんなに手を抜いてもさすがにスヴィトラーナと鈴玉の二人が鬼としている限り、彼らに勝ち目は無い。

 しかも二人の娘は手加減をするのが極度に苦手なのだ。


「スヴィトラーナはもっと思慮深くなって欲しいし、鈴玉はもっと繊細になって欲しいんだけど・・・はい、切った」


 少しだけ掠れた優しげな声と共に、木に触れていた子供の木と手の接合部が切られた。


「へ!?」


 突然現れた綺麗な顔をした人の姿に驚きながらも、端から逃げろ!とバラバラに逃げ始めた仲間たちに遅れる訳にもいかず、その子供も走り出した。


「マーチ、話は終わったのか?」


 木の側に座り込むマザーは微笑みながら持っていた封筒を軽く掲げた。


「これからどうするの?マーマ」


 逃げる子供を追うこともせずに鈴玉は、座り込んでいたマザーの手を引っ張るように立たせる。


「これからちょっと案内の人付けて貰って商会と大工を回って、宿取ろうかしらって思ってるわよ。アンジェラは?」


「部屋の中で女児の相手をしている」


 スヴィトラーナの言葉にふぅんとだけ呟き、封筒の中から二枚のカードを出して鈴玉に渡す。


「アンジェラに渡しておいて」


「おー、身分証?謎素材だ」


 金属のように硬い銀のプレートだが紙のように軽い素材に鈴玉は興味深げに眺めてからそれをズボンのポケットにしまう。


「スヴィトラーナだけ付いてきて頂戴な」


 了解した、というようにスヴィトラーナはマザーの言葉に大きく頷いた。

 それに鈴玉一人ならば子供たちと鬼ごっこをするのに過剰な戦力にならず、丁度良く遊べるだろうとも思いながら。



 孤児院から戻って来たマザーの後ろには一番背の高い白銀髪の少女の姿があった。


「バルメット様、後の二人置いていっても構わないかしら?夕方頃に迎えに来るから。ランチは・・・」


「ええ、大丈夫ですよ。質素な物しかありませんが」


 朗らかな表情のバルメットはアレクシスから頼まれた通りに彼女たちを裏口へと案内する。そこには中肉中背の黒髪の男が不満気な様子で待っていた。瞳は鮮やかな朱色をしている。

 衛兵と同じ制服。

 しかし、その腕には他の衛兵と違い黒の腕章がある。


「やあ、ディーノ」


「宿舎にいたらアレクに頼まれて来たんだけど。どうなってんのこれ」


 眉間に寄せた皺を更に濃くして彼は、笑顔で片手を上げた司祭の後ろにいる人物を胡散臭そうに見た。


「マザー、これは街の遊撃兵隊長のディーノ君。アレクシス様とは騎士学校時代からの友達なのですが、平民なのに貴族の子息と喧嘩したりしまくった所為で騎士にはなれなくて最終的に遊撃兵隊長になったんですよ」


「あらあら、難儀ねぇ」


「人生色々だな、マーチ」


「勝手に色々と説明しないでよ、司祭様」


 額に手を掲げて頭を二度振ってから彼は片手をマザーへと差し出した。


「どうも、アレクに道案内を頼まれたんだ。見目の良い女性たちだから危ないだろうと。何だか思っていたのと違うんだけど」


 マザーはその手を握り、微笑んだ。

 ディーノの身長の方が小さい所為で少しだけ見下げる形になってしまう。

 スヴィトラーナはその隣でビシッと背筋を伸ばし、眼光を鋭くさせた。そんな彼女へと若干狼狽えながら視線を送り、マザーを見た。


「ごめんないね、そういう子なのよ。よろしくお願いね。行く場所は聞いてるかしら?」


「ああ、聞いている。着いて来てくれ」


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