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王都と教会6


「まず一番人口が多いのが私たち、人間です。なので、城の警備や街の衛兵などはほとんど人間がやっています。獣人はその次ですが彼らは身体能力が優れているので大体がハンターになっていますね。次にドワーフ、彼らは職人気質が多く大工だったり鍛冶だったり、服飾、酒造など多方面で活躍しています。最後にエルフ、寿命が長く知識があるので教会勤めや薬を扱う仕事、図書館の職員などをやってますね」


 アレクシスはそこまで言うと黒板に絵を描き始める。

 長い耳を持った細面のエルフ。

 背の小さいガッシリとした体格のドワーフ。

 獣の耳と尻尾の獣人。

 簡易的だが特徴をしっかりと捉えている絵に、スヴィトラーナが分かりやすいとしきりに頷いている。


「個人差はありますが大まかにこんな感じです。獣人に至っては見えない部分に鱗や羽根があったり、首から上や、腰から下などが獣の場合もありますので、見ても驚かないように気をつけて下さいね。あと彼らは思慮深くないというか豪快というか、若干頭で考えるのが苦手なので考慮してあげて下さい。あと彼らは春の時期は恋の季節なのでそこも考慮してあげて下さいね・・・」


 鈴玉が机に伏せながら、はいっと手を挙げる。


「混血の場合はどうなるの?」


「混血はありえません。どの種族がどの種族と結婚しても産まれるのは両親どちらかの種族になります。人間と結ばれた場合は人間になる事が多く、両親どちらかが獣人の場合は数人の子供が授かる場合が多いです。それとエルフは滅多に産まれませんね」


 次にアンジェラが恐る恐る手を挙げた。


「あのっ、あちらの大陸にある物語ではエルフは魔法が使えたりするのですが・・・それは・・・」


 バルメットはハハハと笑いながら、首を横に振った。

 ぴこぴこと長い耳が揺れる。


「精霊とか幽霊とかそういう類が分かるだけで、魔法は残念ながら。あれは最初から最後まで「創世の王族」のみが使用できる感じですね」


 ああ、と黒板の前に立つアレクシスがバルメットの言葉に続けた。


「王族はある意味、人間とは別の種族と考えた方が良いですね。王族の血が薄くなったとはいえ、魔法と呼ぶのには難しいですが不思議な力が使えますからね」


 王族の血が絶える事はない。それは反乱が起きたとしても血を繋ぐ事は必然なのだ。


「あ、そうだそうだ」


 突然、バルメットが三人の娘を見回し、ニッコリと微笑んだ。


「もし良かったら孤児院の方を見学しますか?色んな子たちがいますし、慣れるのに良いかと」


「そうですね、大体の説明は終わりですし。後は細かい話や住む場所を決めたりなので貴方にいて貰えば大丈夫です」


 アレクシスはそう言ってマザーを見た。彼は少し微笑んでから娘たちに視線をやる。


「良いんじゃないの?しばらく遊んで来なさいな」


 三人の娘を連れ立ってバルメットが部屋を出て行くのを確認してから、アレクシスは背筋を伸ばすとマザーへと口を開く。


「砦ですが、今朝に私の部下が焼失しているのを確認し、生き残りの盗賊から「盗賊に襲われた」との証言を得ました。滞在中の姫君と使者の方を監視していましたら途中で使者の方が軍部の様子や数名の上役との面談を望むなどしましたので、滞り無く普段と同じように対処しました」


「ああそう、それは良かったわー」


 ガチャリとドアが開き、バルメットが箱を片手に戻ってくる。


「カーナを案内に付けました。それとこちらを」


 箱を開けると大きめの地図と書類の束が出てきた。

 地図には黒で塗られた部分と白の部分があり、良く見ると黒で塗られた部分に白い紙がまた貼られている。


「んー、と、隣同士か縦に二軒並んでる所で・・・裏路地寄りで・・・と・・・」


 地図に目を落とし、ついっと指先を滑らすとバルメットの白い指先がある一点を指した。


「此処がオススメですよ、市場も近いですし。元々喫茶店だったお店に裏側に屋根裏の三階が着いた二階建てのちょっと古い家があります。此処ならご希望通りですよ」


「では此処でお願い、司祭様・・・あと何か聞きたい事があるんでしょう?司祭様は何が聞きたいのかしら?スリーサイズと年齢なら秘密よ?」


 マザーが微笑みながらバルメットを見上げると、彼は少し困ったような顔をした。


「いやはや、人間にしとくのが勿体無い程に美しい・・・ええ、その。エルフには精霊憑きと呼ばれる現象が起きる者がいます。上位の精霊がずっと傍らにいる状態の事です」


「司祭様がそうなのね」


「はい、私に憑いた精霊が仕切りに王族の匂いがすると訴えているのですが

、どういう事でしょうか?」


 まさか一介の酒場の店主が王族の血を継いでいるという訳では無いだろうし、それとも身分を偽っているという場合もあるが。

 マザーはケラケラと嬉しそうに顔を綻ばせて笑った。


「ああ、嬉しいわ!嬉しい!そうね、この首飾りの所為よ!これはあの帝王の弟という立場にいた友人が私の為に作ってくれた首飾りなの!留め具は無くって外すことも出来ないわ。趣味が悪いわよね」


 マザーは首飾りの透明な石の部分を指で持ち上げる。

 嬉しそうに微笑みながらもその瞳は悲哀に満ちていた。


「この部分は本当は真紅だったの、彼が亡くなった瞬間に透明になって。いつでも連絡が取れていた彼の声がもう聞こえなくなってしまった・・・魔道具といえば良いのかしら?王族が魔法によって作り、自らの血液で魔力を込める。だから王族の匂いがまだ残っているのよ」


 バルメットは手に持った聖書を掲げた。

 死者の弔いを、そして目の前にいる彼の悲しみを祈って。

 微笑みながらマザーは司祭に礼をするように、頷きながら透明の石を指先に触れた。


「戦争は沢山よ。ならば、親しい友人を頼って可愛い娘たちの為に私は微笑むわ。彼女たちはこちらの方がもっと楽しく過ごせそうだしね」


 母親の責務。

 アレクシスは自分の母が、アレクシスが自らの道を諜報部へと定めた時に、何を言わずに只、無事であれと願い、病床にありながらも微笑んでくれた事を思い出した。


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