王都と教会3
教会の鐘が鳴る。
ガランガランという音と共に教会を囲う門が開け放たれ、並んで待っていた何組かの王都の人々が足早にその中へと進んで行った。
教会の建物の横にある屋根付きの受付には年若い二人の修道女は椅子に座り、その対応をする。
まずは産まれて数日経った赤子とその両親。
お祝いの言葉と共に、戸籍の登録を済ませ、登録料を支払って貰う。
次に来たのは戸籍を更新に来た人だった。
三年毎の更新に料金はかからず、名前と自分の登録番号を口頭で述べて貰い更新は終了する。修道女により記載された名前と番号は順に教会内にて戸籍と照らし合わせ更新の判が押される。
この三年毎の更新を三度しなかった際には死亡したとし、死亡の判を押し戸籍は燃やされるのだ。もちろん、死亡した本人の家族が死亡を報告すれば、その場で死亡の判は押される。
そして、次に来たのは化粧をし女性用のドレスを着た綺麗な男と三人の少女だった。
周囲にいた僅かな人々が女の格好をした男などと、不審に思ったのは一瞬だった。紫の瞳の中にある銀の色、細く白い腕に首、絵画のような美しさに、誰もが目を奪われたのだ。
乗っていた馬車が去るのをしばらく見送ってから彼らは受付へと向かって行った。興味深そうに辺りを見回す三人の娘たちの可愛らしさもあり、周りの目を惹き寄せる。目尻に紅を飾った綺麗な男性はその様子を微笑みながら見つめ、受付で驚いている修道女へと持っていた手紙を渡した。
「これ、紹介状。よろしくお願いね。あと司祭様と待ち合わせをしていたのだけど・・・」
「あっ・・・はい!確認だけさせて下さい!」
慌てて受け取った紙に目を通し、スチュワート領の印とその四人の身元や経歴に不審な点が無いか確認する。その後、修道女は後ろにいた他の修道女と受付を代わり、その客人たちの元へと足早に近付いた。
近付いて気付いたのはその男の背が高かった事、それと三人の娘たちが余りにも見た目がバラバラだった事であった。
教会の横には孤児院があり、同じ様に見た目がバラバラな姉妹兄弟たちがいる。
自分が孤児でもあった修道女は「ああ、なるほど」と、その男性が三人の娘たちの母であるのだと自然に受け入れ、好感を持ちながら話しかけた。
「こちらへどうぞ、司祭様の部屋まで案内します!」
教会の中に足を踏み入れると修道女や修道士、それと高齢の男性たちが書類の整理や書き入れなどをしていた。
修道女を伴って入った四人に一瞬だが視線を向けるが、すぐに手元へと移動する。
「お忙しそうね」
「いいえ!いいえ!結婚と出産のシーズンに比べたらこんなのは忙しいの内に入りません!」
カーナと名乗った修道女はマザーの言葉に、首を横に振りながら答えた。
ローブのような茶色の長い修道着を来た茶褐色の髪を持った彼女は成人はしているのだろうが幼い顔立ちをしている。
教会の廊下をしばらく歩きながら、途中にあった大きな礼拝堂や、隣に併設された孤児院の説明などを受け、マザーは嬉しそうに相槌を打つ。
帝国にも孤児院はあった。
しかし、それは子供の頃から武器や暗殺、諜報などの仕方を教え、最終的には人間爆弾として戦場へと向かわせるただの軍の生きる武器製造所であった。
本当に、最終手段ではあったが、この国を選んで良かった。
「こちらでお掛けになってお待ち下さいませ!」
談話室へ通され、マザーは娘たちを促しながら椅子へと座る。全員が座ったのを確認してからカーナは談話室の奥にある扉を叩いた。
「司祭様!お客様です!司祭様!」
遠慮無くドンドンと叩くが、ドアは開く事も中から誰かが反応する事もなかった。しばらくするとカーナは、よし!と言いながらドアを開け、づかづかと中へ入っていく。
「司祭様!起きて下さい!」
「司祭様、寝坊?」
鈴玉は隣に座るマザーに向かって首を傾げた。
「人間色々よ、司祭でも惰眠を貪る方はいるわ。個性って言うのよ。でも、鈴玉は真似しちゃダメよ?これは司祭様の個性だから私たちが奪ったらいけないわ」
「司祭様!このままだと完全に居眠りキャラに固定されますよ!」
「んー・・・起きたから・・・大きな声出さないで下さい・・・」
ガタガタと音が聞こえ、ドアからカーナと、柔和な表情の眼鏡の男性が出てきた。ダークブラウンの髪に同じ色の瞳の思ったよりずっと若い見た目の司祭だった。
ただ一つ、今まで会ってきた『人間』との違いがあった尖った長い耳がダークブラウンの髪の間から伸びている。
「いやぁ、すみませんねぇ。えーと、カーナありがとう。仕事に戻って下さい」
のんびりと響いた声にカーナは、一瞬だけ不安そうな顔を浮かべたものの談話室から出て行った。
カーナの足音が聞こえなくなるまで待ち、司祭はふぅ、と息を吐いた。
「では、こちらへどうぞ。アレクシス様がお待ちです」
頬に赤く残った居眠りの跡を隠しもせず彼は、談話室にあったもう一つのドアを開けた。中には不機嫌そうな顔をしたアレクシスが机に寄りかかり、腕を組んで司祭を睨みつける。
「バルメット様、業務中の居眠りは気をつけて頂きたいのだが」
前に黒板と教壇があり、向かい合わせに生徒用の机と椅子が並べられている。希望者に勉学や歴史などを教える為の教室らしく、壁にある本棚には聖書や歴史書などが並べられていた。
ハハハ、と笑ってから彼はアレクシスの肩をバシバシと叩く。
「寝てないとやってらんない、年寄りだもん」
「だもんとか使わないで下さい、爺の癖に」
司祭の後ろから入って来たマザーと三人の娘の姿にアレクシスは、ほっと安堵の表情を浮かべながらマザーへ大きな封筒を手渡した。
「今回は本当に助かりました。こちらが貴方と三人の娘さんの過去と身分証になります。それと商会と大工の紹介状です。あと家と土地については教会の方で管理していますので司祭様に後ほど聞いて下さい」
「分かったわ、えーと、こちらの司祭様は色々とご事情を?」
チラリと彼を見ると司祭は長ったらしい白に刺繍の入ったローブをたくし上げながら生徒用の椅子へとどっこらしょっと腰掛ける。
アレクシスがその様子を見ながら嫌そうに答える。
「この国では戸籍や住居などは完全に教会がやっていますので諜報部とは大昔からの腐れ縁らしいです。こう見えてこの方、もの凄い爺なので」
「あぁ、そういえば自己紹介がまだでしたね。私はこの教会で司祭の地位にあるバルメット・エル・リーオ。見ての通りエルフです。宰相の方から、亡命者な君たちへ色々と国内の事を教えてくれと言われました」
椅子に腰掛けたままバルメットは、マザーに手を差し出した。鈴玉が目をキラキラと輝かせているのを感じながらマザーは差し出された手を握った。
「私の事はマザーと呼んで。酒場の主人よ。黒髪が鈴玉、金髪がアンジェラ、白銀髪がスヴィトラーナ。皆、私の可愛い娘よ」
「可愛らしい娘さんたちですねー。どうでしょう?最初にそちらの大陸のお話を聞きたいと思うのですが」
バルメットの言葉にマザーは腕を組み、天井を見上げる。
しばらく何かを考えた後に、一つ頷いた。
「あーと、何ていうか歴史だけで良いかしら?後はあまり面白い話は無いわよ。そしたら昔、エディット様から聞いていたこちらの歴史と合わせて話すわよ。その方が無駄が無さそうだし。ほらアンタたちも座んなさい」




