003 或いはそれは洞窟の中(3)
「もし、救援がきた時には必要か」
その考えは良い意味で来た時のものである。
考えたくない事、もしも、自身を、シオンを殺した存在が来た時にはどのようにすればよいのか。ステータスの数値は低く、戦闘のせの字すらも知らない肥えた豚の体である。
「やっぱり、強くなる事は必須、か」
その指は考えるよりも先に動いていた。
戻り戻って、購入の画面をタップする。有名なネット通販【Amaz〇n】と同じ、見知った画面だ。その検索欄に指を付けてスマートフォンを弄るかのようにフリックで文字を打っていく。
最初に【剣】と打っては消し、次いで【槍】と打っては消す。シオンの知識が正しいのならば、この世界には魔物と呼ばれる獣とは別格の敵が存在しているのだ。
剣ならば刃こぼれさえ回避すれば、どうにか戦闘継続が可能かもしれない。槍ならば、その間合いの弱点を補えるだろう。だが、一度の戦いすらも経験したことのない体で操れる代物とは、到底思えやしなかった。
近付いて戦う、そのヴィジョンが浮かばない。
思い付く武器の名前を打っては消し、打っては消した先に決めたのは……握った事もない得物の名前であった。決め手は二つ、遠距離や死角から殺せる事と剣で見た説明よりも良い効果があったからである。
「拳銃……とはいえ、名無しみたいだけど」
商標権がかかっているのか、名前は拳銃である。
持ち手は茶色で纏められており、それ以外がシルバーとなっている普通の拳銃。軽く触った彼は大きな溜め息を垂れ流した。確かに言葉通りの拳銃ではあるが期待外れだったのだ。
「おっも……ってか、手に馴染まないな……」
だが、馬鹿にした言葉とは裏腹に笑顔であった。
三十万円、大銀貨三枚で買えた物にどれだけの価値があるのかは彼にも分からない事である。それでも銃だけ、説明が違っていたのだ。
他がステータスに何パーセント、〇〇分だけ上昇すると記入されている中、銃はHPに〇〇〇分のダメージを与えると書かれていた。それ即ち、固定ダメージを与えられるという事である。
だからこそ、次に開いたのは衣類のコーナーだった。普通のユニク〇のシャツ等もあれば、異世界ならではの魔法が付与された物も多く並んでいる。値段からしてシオンの着ていた衣服は、VUITT〇Nと肩を並べる程だろう。
だが、実態はただの高価な衣類でしかなかった。
それは倉庫の中に入れられている他のシオンの服も同様である。今、彼が必要としていたのは通常の衣類でありながら防御効果のあるものだった。
ピッピッと指でスクロールしながら一つの商品で止まる。名前は【異世界村人Aセット】という名前ではあったが、値段が似合わない程に高価だったのだ。
「金貨一枚……代わりに内容量も悪くはないか」
下着、靴下、シャツにズボン……全てが十着ずつ揃っているセットだった。素材は麻と羊毛の二種類て作られていると書かれており、確かに値段に見合いそうな能力が付与されている。
一つ目に【寸法調整】、着用する相手に合わせてサイズを変更するスキルである。特に豚すらも酷く罵倒するであろうシオンの体には必要不可欠な能力だ。
二つ目に【防御力向上】、着用者の防御面でのステータスを一割だけ上乗せする力である。どれもが固定値として百ずつ防御方面のステータスを増加させる点からして、今の彼には欲しいものであった。
最後に【体温調節】、外の景色が分からない今、確かに今の彼には無くてはならないものである。
どれを取っても必要不可欠……指が勝手に購入のボタンを強く押した。
「……百万、使ったのか。これで大学の奨学金をどれだけ返せるって言うんだよ……!」
嘆いてしまうのも仕方が無い話だろう。
彼の祖父母の資金の多くは奨学金に消えたのだ。最初の内に貯めておけばよかった……では、誰が彼の両親の葬式を取り次ぐというのだろうか。生きるためには金がいる。死んだところで金がいるのだ。手に入るべき金銭の半分以上が超えた腹の豚共に奪われてしまう。
払われた金銭も大半が税金によって奪われた今、金の大切さは彼がよく知っていた。
「決めた……ああ、決めた。決めたともさ」
それは再確認だったのかもしれない。
最初から考えていた事ではあったのだろう。
決めたと話す彼の目と口は三日月に裂けていた。
「シオンとして生きようじゃないか。ああ、生き残ってやるよ。次は失敗しない。絶対に……次は間違えたりなんてしない」
最後に残った異次元銀行……それに触れた瞬間に確かにシオンは笑みを浮かべた。それだけが特異なのか、全てを一瞬で理解したのだ。いいや、本来であれば、それに触れるべきだったのだろう。
「そうかい……それがクソ神様の皮肉ならな」
能力は至ってシンプルなもの、金銭の貯蓄が可能であり、尚且つ、それに対して十日で一割、トイチの利子を得られるというものである。同時に年間で0.1%の利息から金を借りられるという副産物も用意されていた。
「がめついのは……アンタだったな」
今は終わった賭け、それに勝利したのだ。
だからこそ、笑って衣服を入れ替える。そのまま新しく購入した剣を腰に差して構えてみせた。
「さてと……クソ女神の後髪でも禿げさせるか」
新しく購入したホルダーにクルクルと回した拳銃を差し、満面の笑みで出口へと向かった。
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